前週のカシオ・ワールドで悔しい逆転負けを喫した石川遼(24)が、そのリベンジを1週後の日本シリーズ・JT杯(12月3~6日。東京よみうり)で見事に果たしました。2日目首位に立った石川は、最終日も3つ伸ばす67で回り、2位に5打差をつけた通算14アンダーで初の国内メジャー制覇です。苦戦続きの米ツアーでは見られない国内での遼の強さ。優勝賞金4000万円を獲得し、大詰の2週で計6000万円(前週2位で2000万円)を荒稼ぎ。国内で7戦した遼は、ANAオープンと2勝し日本選手では唯一の複数勝利。賞金ランクは6位(8778万8433円)でフィニッシュしました。日本でいいムードを作った遼は、来年こそ米ツアー初勝利の夢実現へ大きく前進したといえそう。ソニー・オープン・イン・ハワイ(1月14~17日)から4年目の米ツアー挑戦を再開します。 ≪今季、男子ツアーは終了し、金庚泰(キム・キョンテ、29=韓国)が10年以来2度目の賞金王。獲得賞金は1億6598万1625円≫
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今季国内ツアー参戦7試合中、4試合で優勝争いを演じ、うち2勝した遼は、日本では敵なしの強いゴルフを見せました。前週のカシオでも首位で最終日を迎えながら、66で回った黄重坤(ハン・ジュンゴン、韓国)に足をすくわれました。しかし、この試合も内容的には勝っておかしくないゴルフを展開していました。この9月、米ツアーの最終戦で辛うじて来季のシード権を確保、帰国してすぐ戦った片山晋呉招待ネスレ日本マッチプレー選手権(非ツアー競技)で無名の1年生(堀川未来夢)に悔しい1回戦負けを喫してから、遼は変わってきました。
「米ツアーでもずっと挑戦することを怖がっていた。守りに入るゴルフをやっていた。これからは最下位で予選落ちしてもいいから、恐れずやろうと決めました」と、一大決心を語りました。次戦、ANAオープンの初日に24歳の誕生日を迎えた遼は、最後まで攻めまくって勝利をつかみました。吹っ切れたようなさわやかな表情を見せたこの試合から、遼は変わったのです。10代のころ、怖いもの知らずに戦ったあのころを思い出させる″変身〝でしたが、「失敗を数多く経験してきた今の自分は、あのころとは違う」とキッパリと言い切りました。
「リードしたからといって守りに入らず、最後まで攻めていくゴルフ。ドライバーを振り切り、アイアンは限界まで精度を高める」というのが、新しい遼のテーマです。前週のカシオでは、ドライバーとアイアンの調子のギャップに苦しみ、1打差2位の悔しい逆転負けを食いました。しかし、その″落ち込み〝を引きづらず、次の日本シリーズJT杯では見事に立て直したのは、遼の一皮むけた進化を証(あかし)でした。
「ボールを置きにいかず、どんなに難しい場面でも思い切り振り抜ければ勝てる。でも、それが難しい」と遼。状況によってはついつい安全策に走ってボールを置きに行ってしまう。日本シリーズでも、まだ抜け切れない″以前の自分〝との闘いを4日間続けていたといいます。
「(2位に)5打差をつけて終わったけど、心境的には追い詰められている感覚があって、自分の中では余裕は一切なかった」と、遼は述懐しました。すべてが大事な1打1打だと思い、「本当に燃え尽きてもいいかなと思うくらい」自分にいい聞かせながら最終日の18ホールを戦ったそうです。しかし現実は、完ぺきなゴルフはできません。2位に3打差の単独首位から出た1番で4㍍から3パットしてボギースタート。2番では1㍍強のバーディーパットを外す嫌な立ち上がりでした。13番(パー4)ではバンカーからの3打目をザックリ。ボギーパットも2㍍残す大ピンチを何とかダブルボギーだけは回避しました。15番のパー3では、左に外せばスロープの下まで転がってチャンスがないグリーン。左奥のピンを攻めきれず、グリーン右に逃げるショットを放ってしまいました。「左がダメなのは分かっているんですけど、あのショットはちょっと悔しいです。リードしているのですから、敢えて攻めていくところをみせたかった。でもそれがいまの自分にはできない。世界のトップの選手はそういったスキをみせない。自分はまだまだだなぁと思いました」 16番(パー4)のセカンドも、「ピン奥をキャリーで狙っていたのに、(ショットが)緩んでピンの横に落ち、バックスピンで戻って4㍍もショートした。それが入ってバーディーはとれたのですが、あのショットはちょっと″置きにいったかなぁと思いました。いわなければわからないことですけど、自分的にはミスショット。これをやっていたらアメリカじゃ勝てないんです・・」(遼)
ANAで勝ったあと、国内第2戦のダイヤモンドカップからは30グラム重くした350グラムのドライバーを投入。アイアンも精度を高めるために、柔らかいシャフトを練習で使用、スイングのタイミングの習得に力を注ぎました。パターもL字からセンターシャフトへ替えたり、グリップも日替わりでクロスハンドや普通の握りに変えたりの試行錯誤も続きました。
そうした努力がようやく成果を上げてきたといっていいでしょう。2日間、同組で回って逆転を狙っていた小田孔明は「負けました。遼はうらやましいくらいに振れていた。パットのラインもしっかりと読めていていいゴルフをしていた。あのままのゴルフでアメリカでもプレーしてほしい」と、脱帽でした。最終戦の4日間、平均ストロークは68.55で1位。パーオン率81.94%で1位。バーディー以上は22で1位・・と遼の安定したゴルフを裏付けるデータを残しました。
プロ8年目。日本で5年、米国で3年。特に環境も何もかも違う遠い異国での戦いでは、メンタル的にも大きなハンディを背負います。日本では余裕のゴルフが出来ても、米国では心のあせりが思うようなゴルフをさせてくれません。
「このショットじゃまだダメかな、というのもありますが、この状況でこんなショットが打てるんだ、というショットもありました。自信にもなったし、チャレンジしてできないのは次につながります。チャレンジしなかったり、消極的になってしまったショットからは、何も生まれないというのを学べました。いままで練習はうまくできても実戦でやろうとしない、逃げてしまう自分がいた。打つ方以前の問題があったと思いました。今回のようなゴルフが出来れば米国で、世界でも戦えると思う。時には孤独を感じる戦いですけど、できると信じて、優勝したときのこの景色(18番グリーンで祝福されたシーン)を思い出して頑張りたいです」(遼)
日本シリーズが終わった翌7日には「2015年ジャパンゴルフツアー表彰式」が東京・パレスホテルで行われました。賞金王の金庚泰(キム・キョンテ)が最優秀選手賞など7部門で表彰され、石川遼はファンが選ぶ今年″最も輝いていたプレーヤー〝MIP賞(モースト・インプレッシブ・プレーヤー)を9年連続で受賞。しゃれた蝶ネクタイのスーツ姿で登場。ひときわ輝いた存在感をここでも漂わせていました。12月中に毎年恒例の沖縄キャンプを10日間ほど行い、ゴルフの土台作りと、アイアンのコントロール・精度を高めるのが主なテーマ。年末年始は自宅で過ごし、1月の米ツアー、ソニーオープン・イン・ハワイ(14~17日)が来年の初戦となる予定です。強かった日本での遼ゴルフを、米ツアーで見せられる日も近いかもしれません。
(了)