遅咲きの宮里優作(37)が4日間ノーボギーの通算22アンダーで完全優勝。賞金2000万円を獲得して賞金ランキングも1位に再浮上。史上初の選手会長での賞金王へ、まっしぐらです。「ツアーワールドカップ」(愛知・京和CC)の最終日、″ノーボギー〝のプレッシャーに耐えながらの68。初日には10アンダーの驚異的な61をマークしてトップに立ち、4日間とも60台で回っての独走優勝。今季は中日クラウンズ、日本プロ日清杯と2試合連続優勝(5月)したのに続いての3勝目。ツアー通算6勝目と男子ツアーのトッププレーヤーにのし上がってきました。プロ入りから初勝利まで12年を要した遅咲き男が、プロ16年目の大ブレークは無気味です。
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プロといえども4日間、ノーボギーでプレーをし終えるのは至難の業です。資料をひも解いても「72ホール(4日間)ボギーなし優勝」は、米ツアーではリー・トレビノ(米=74年)、欧州ツアーではI・パーネビク(スウェ―デン=95年)。米女子では朴仁妃(パク・インビ、韓国=15年)、欧州女子ではディアナ・ルナ(イタリア=11年)。日本ツアーでは3日間54ホールの女子でアニカ・ソレンスタム(スウェ―デン=03年のミズノクラシック)と申ジエ(韓=15年のNEC軽井沢72)といった記録が見当たるくらい。
少なくとも一つや二つのボギー以下は出るものですが、今回の優作がいいます。「最終日はちょっと苦しかったですね。特に前半は重い雰囲気で、ボギーがそろそろくるんじゃないか、と思ったりしました。9番はボギーかなと・・」。その9番(パー4)。段を上がっていく20㍍のファーストパットが3㍍もオーバー。しかし、「決めたラインに迷わず打っていった」(優作)返しのパーパットがカップに吸い込まれました。それより前、519ヤードと長い3番(パー4)でも第2打をグリーン奥のラフに外し、アプローチも3㍍ショートしたピンチ。ここも粘り強いパットでパーをセーブする変身した優作がいました。
スイングも美しく、飛ばし屋の優作の弱点といえば、肝心なところでのパットが決まらない軟弱さ。これがなかなか勝てない要因でした。優勝への道は遠く、プロ12年目、16度目の最終日最終組となった13年の日本シリーズJT杯が思い浮かびます。優作は3打リードで迎えた最終18番(パー3)。ツアー屈指の難ホールといわれる東京よみうりの18番で、1打目をグリーン左奥に外し、第2打はトップしてグリーン反対側のラフにまで転がり落としました。3打のリードも薄氷のよう。カップまで10ヤード。外せばコロコロと転げ落ちてしまう傾斜の強いグリーンへ、優作の勝負をかけたチップショットが直接カップイン。劇的なパーでした。2位呉阿順(中)を抑えて悲願のツアー初優勝を遂げたのです。
あの1勝以来、殻を破ったように優作は強さを現してきました。14年東建ホームメイト杯、15年ダンロップフェニックス、17年中日クラウンズ、日本プロ日清杯、そして6勝目のツワ―ワールドカップでの偉業・・。
強くなった最近の優作にはいくつかの″変化〝が見られます。まずはクラブを替えたこと。この夏、全米、全英オープンのメジャーに参戦。「トップ選手たちのクラブのセッティングがとてもやさしいものになっている。アイアンも小ぶりなプロ仕様のヘッドとは真逆で、オートマチックなやさしいクラブが多かった。自分も体調や年齢を重ねたこともあるし、4日間をキープしていくことが難しくなってきている。でシーズン中なのにクラブもボールも替えた。シャフトも硬いものからSに替え、横風に負けないようなボールに任せ、縦の距離感を大事にした。ある程度クラブとボールの恩恵を受けるというのも大事かなという考えですね」(優作)。
2つ目は長年苦労してきたパターです。
「大事なパットになると、かがむクセがあったので、少し体を起こして構えること。体重も右足に乗るクセがあったので、左足に乗せて軸をつくる打ち方にした。これが今回も4日間、波がなくできていた」(優作)という。さらにはショットのアドレスで右腕が伸びすぎて、突っ張る状態だったのを修正。右手の動きを早目に曲げられるように緩めた。その結果はトップもコンパクトになって合わせやすかったという。
最終日の前半は″ボギーを打たないようにしよう〝とする自分に気づき、これではダメだと12番のパー3からは雑念を払ってピンを狙うゴルフに切り替えたのもよかった、と優作は苦しかった最終日18ホールの自分との葛藤を語りました。
考えられるすべてのことが好循環して、72ホールノーボギーの偉業が達成されました。宮里家の今年は変動の年です。世界を股にかけた妹の藍ちゃんが5月に現役引退を表明、8月には父・優さんが病魔に倒れるアクシデントもありました。幸い父親の容態は良好のようですが、選手会長2年目の優作は低迷の続く男子ツアーの立て直しに一役買う重責を担っています。今回の優勝で、賞金ランキング1位(9927万2607円)に返り咲きました。2位小平智には1400万円弱の差をつけています。賞金王も初めてですが、選手会長を務めながら賞金王というのはツアー史上初の快挙です。
次週は男子ゴルフ最高峰の日本オープン(岐阜関CC東コース)が控えます。ディフェンディング・チャンピオンの松山英樹は欠場ですが、石川遼が帰国して参戦します。
「ディフェンディング・チャンピオンがいないので、ちょっとチャンスかなと感じています(笑)。石川君が出てくれて大会を盛り上げてくれますし、小平君(賞金ランク2位)も調子がいい。C・キム(米=日本ツアー賞金ランク3位)も、あの飛距離でどこへ行ってもチャンスありでしょう。気を抜く試合は一つもないですが、ノーボギーで4日間回った経験が、これからの自分の試合に生きてくると思います」
選手会長は、高ぶるモチべーションで大詰の男子ツアーに立ち向かいます。残りは8試合。どの試合も高い賞金がかかるビッグゲームばかりです。遅まきながら37歳にして大きなチャンスを呼び寄せた男・優作。男子ツアーをどこまでヒートアップさせられるでしょうか? (了)