最終18番、最後の1打で″逆転サヨナラ劇〝。日本オープンの厳しい設定にも勝った曲げない男・稲森佑貴!日本OP2勝の謎は!

ツアー2勝がともに日本オープンの快挙、稲森佑貴。

ツアー2勝はともに日本最高峰・日本オープンという快挙!170㌢に満たない小柄で地味な男がしでかした大仕事。稲森佑貴(いなもり・ゆうき)26歳。プロテストを鹿児島城西高2年生の16歳で一発合格したときから、ピカリと光る″何か〝を秘めたゴルファーでした。ツアー2年目の14年には初シードを決め、以来、賞金ランクは年々上昇。18年には初優勝を日本オープン(横浜CC)で飾り、2年後の20年、新型コロナウイルス禍真っただ中の日本オープン(千葉・紫CCすみれ)は、最終日、最終18番でまたも稲森佑貴がバーディーで決めた逆転優勝でした。相手の谷原秀人・41歳、ここ3年は欧州ツアーを主戦場としていたベテランとの白熱のマッチレースでしたが、再度メイクドラマを演じた稲森には、″何か〝がひそんでいるのでしょうか。

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曲げないコツは「ムチャ振りしないコンパクトなスイング。インパクトの位置を一定にして同じタイミングで打つ」稲森佑貴。

大男ぞろいの近年の男子ゴルフにあって、169㌢、68キロの地味で目立たない男。スイングもコンパクトで、大振りは決してしません。派手なアクションもみせず淡々とフェアウェイ&グリーンを目指して戦う稲森の姿が、今回はやけに大きく見えました。

最終日、マッチプレーのように1打1打を争った相手は、国内ツアーで14勝、17年は世界の舞台で活躍。18、19年はシード権をとった欧州ツアーに専念して「KLMオープン」3位などトップテンに5試合入ったベテラン谷原秀人。19年は欧州ツアーのシード権を失って今季から日本ツアーでの復活を期す強者です。3日目に単独トップに立った谷原は、最終日も16番まではトップを走り、パープレーが続く稲森には1打差のリードを保っていました。国内での谷原の勝利は16年に3勝して以来。しかも日本オープンという大魚を目前にして、さすがの谷原にも目に見えぬ疲労感と日本オープンの重みがホールを追うごとに襲いかかっていました。

「我慢していればチャンスがくる」と、最終日1打差2位から谷原秀人に食い下がって離れなかった稲森佑貴。

追う稲森は、入れごろのバーディーパットが入らず、前半はすべてパー の苦しい展開。しかし、耐えて耐え抜いた稲森には26歳の若さもありました。身上とする「曲がらないショット」は狂いません。キャディーと「我慢していればきっとバーディーがくるから」と話し合ってホールを重ねたそうです。15年から19年まで5年連続フェアウェイキープ率第1位という正確無比なショットを持つ稲森に、ジワジワとツキが回ってきます。1打リードで逃げ切りたい41歳の谷原は、終盤17番で入れてはいけないグリーン左の難しいバンカーに第2打を落とします。3打目がグリーンエッジに上がっただけの大ピンチ。そして手痛いボギーです。

パー5の1ホ―ルを残して二人並んで迎えた18番(612ヤード)。ここでも完璧なティーショットを放った稲森は、3打目をピン右2㍍。谷原は右ラフからの3打目が立木の枝に邪魔されてグリーンオーバー。パーに終わって万事休す。「最後は心臓がパクパクするのが聞こえた」(稲森)という稲森のウィニングパット(バーディー)は、カップど真ん中から沈みました。まさに絵に描いたような最終18番、最後のストロークでの逆転サヨナラ劇!それまで耐え抜いた稲森の日本一曲がらない正確なショット力と若さ。ラフに入れたらスコアを落とす日本オープンの厳しい設定にも慌てなかった勝利でした。

最終日、最終18番のバーディーで勝負を決めた稲森佑貴。会心の逆転劇だった。

稲森佑貴。鹿児島市生まれ。実家はゴルフ練習場。父・兼隆さん(69)は07年に日本シニアオープン出場歴があるほどの腕前。ゴルフができるいい環境で佑貴は6歳からクラブを振って育ちました。曲がらないショットは、師と仰ぐ父から「インパクトの位置を常に一定にして、同じタイミングで打つ反復練習」を教えられ、日夜クラブを振ったのが原点。飛ばしたいといっても父は許さず「(飛ばそうと)マン振りしていると、いつか手首やひじを痛める」と諌(イサ)められたという。高校2年の2011年に16歳

で受けたプロテストに一発合格。18年10月、横浜CCでの日本オープンは3日目に首位に立ち、最終日は1度もフェアウェイを外すことなく68を出しての逃げ切り優勝でした。19年には全英オープンでメジャーも初体験、4日間を戦いました。フェアウェイキープ率は昨年まで5年連続で第1位(今季は目下3位)。ドライバーの平均飛距離は270ヤード前後で、飛ばし屋とはいえませんが、正確性では誰にも負けないゴルフを会得しました。

プロ転向初戦で注目された金谷拓実。2日目から3日間60台で回ったが、初日の出遅れ(72)が響き、7位に終わる。

今年2月22日に鹿児島の中学で1学年下だった美穂夫人(25)と結婚。鹿児島市内に新居も購入。昨年は賞金ランク49位と体力面で苦しんだのを反省。オフには体力づくりから見直し、コロナ禍による試合中止の空いた時間には、筋トレに励むなど体幹を鍛えたのが「より安定したショットが打てるようになった」(稲森)という。
プロ入り10年目にしてつかんだ日本オープン2勝のビッグタイトルは、ズシリと重い。300ヤード超ドライブを武器にした若手の活躍が目立ってきた男子ゴルフ界にあって、曲げないゴルフの強さもまた「NO1」になれることを実証した稲森佑貴の快挙。

(了)