プレジデンツ・カップ(米国)で男を挙げて帰国した石川遼が、突然ブレーキがかかったように苦戦し始めました。休まず出場した日本オープンで心ないギャラリーの写メにリズムを崩されてからおかしくなりました。それでもこの試合、プレーオフに生き残りながら、ツアー初優勝の小田龍一に名を成さしめました。続くブリヂストンオープンではいいところなく20位に沈み、ライバル池田勇太の優勝で賞金ランキング1位の座を明け渡すハメに。超人気スターとなった遼クンが味わい始めた″人気税〝に、18歳の国民的アイドルは耐えられるのでしょうか。
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ブリヂストンオープンの初日、袖ヶ浦の18番で石川遼の甲高い声に驚かされました。「携帯、やめてください!」ー。グリーン手前の浅い池に入れた石川が、ウオーターショットを打とうとしたとき、突然構えをやめギャラリーに向かって叫んだのです。気を取り直した石川はウオーターショットを成功させて脱出、パーでこのピンチをしのぎました。
「構えに入ったら携帯ムービーの撮影モードの音が聞こえたのです。ウオーターショットを撮りたかったのでしょうね」とその場面を石川はあとで振り返っていました。それでも袖ヶ浦の観客のマナーは「今シーズンで一番よかったかも。18番ではいましたけど、久しぶりに集中してできました」と遼クン。このところギャラリーの心ない写メの音やその他の騒音に悩まされ続けている石川のイライラがつのり始めました。
一週前の日本オープン(武蔵・豊岡)最終日では、6番(パー5)グリーン手前バンカーからの第4打でクラブを振り上げた瞬間に「カシャ」とシャッター音です。スイングをかろうじてやめた石川は、後方のギャラリーをにらみつけ、右手で右太ももを力任せに叩いて不満を表しました。遼クンにしては珍しく怒りを面に出した仕草でした。いったんバンカーの外に出て気を取り直した石川のやり直しバンカーショットは、なんとホームラン。ダブルボギーにするハプニングでした。この試合は3人によるプレーオフとなり石川は敗れたのですが、結果論ながらあの携帯騒ぎがなかったら、プレーオフなどにはならずに石川遼の優勝だったかもしれません。
話はブリヂストンに戻りますが、海外を何度も経験してきた石川は、こうした場面を目のあたりにして最近の言動が変わってきました。全英オープンに続きプレジデンツカップでも再度タイガー・ウッズと回った石川は、しっかりとこの目で″タイガーのやり方〝も見定めてきました。米ツアー等では選手とカメラマンとの関係はピリピリしているといいます。
「タイガーは構えに入ってからでなく、ボールの後ろで飛行方向を確認しているときでもカメラのシャッター音には敏感です。怒ります。僕なんかだとそこまでならまだ許せると思う場面でもタイガーはノーでした」
とにかく選手も真剣ならカメラマンもプロフェッショナル。お互いぎりぎりのところで向き合っているのを間近に見てきた石川は、それまでの何も文句をいわない優等生のはにかみ王子では完全になくなりました。あるときはシャッター音を出したギャラリーを特定して、持っていたクラブを指して「やめてください!」と叫んだこともありました。
ゴルフトーナメントのカメラマンはいくつかの不文律があります。スイングのインパクトもそうですが、バックスイングのトップでのシャッター音などは絶対に禁物です。フラッシュもいけません。プロカメラマンは大体がズームを使って遠くから撮影していますが、中には選手の気になる距離でカメラを構える人も皆無ではありません。石川は海外の選手VSカメラマンの厳しい″対決〝を見て、日本のカメラマンにも何かを言いたかったのかもしれません。
日ごとにオーバーヒートしてくる石川遼人気。それはそれでうれしいのですが、さすがに「もう黙ってはいられない」場面も増えてきました。カメラだけではありません。ブリヂストン初日にはこんなこともありました。15番ホールで石川の第1打は右の林方向に。ボールは林近くにいた男性に当たってラフに落ちました。たまたまそこにいた年配の女性が「遼クンのボール、記念に持ち帰ろうと思ったの」と拾い上げてしまったのです。さあ、大変です。そのまま持ち去られたら「紛失球」となって、石川は1打罰で打ち直しです。近くにいたギャラリーが「触っちゃダメ」と叫んだため、女性はあわててボールを手放しました。危ないところでした。石川はルールにより無罰でプレーを続けました。
ヒートアップしてきたこうした″事件〝も、スター選手の″人気税〝といってしまえばそれまでですが、さすがの石川も最近では強い意思表示をするようになったというわけです。こうした事態を憂慮した日本ゴルフツアー機構(JGTO)では、観客の観戦マナーについてのPRビデオの作成にとりかかりました。TVの実況放送中にスポットではさむとか、会場その他のゴルフ施設での配布。またトーナメント会場ではスタッフのポンチョに注意書きをつける。あるいは注意書きボードを作って会場内に掲示、持ち歩きするといった方策です。効果はあるでしょうか。
池田勇太という石川遼の強力なライバルが現れた男子ツアーは、終盤戦に向かってますます若手主導の人気が高まりそうです。賞金王レースもこの二人の若者によって最後までデッドヒートとなるでしょう。まわりの「雑音」が、この白熱戦に水を差すようなことがないことを祈ります。