Daily Archives: 2010 年 11 月 4 日

「4つもハンデをくれたんだから、内容のないパーはいらない!」上がり3ホール、3連続ボギーで勝った倉本昌弘

日本シニアオープンを制して渡辺キャディーと2ショットの倉本昌弘(右)=兵庫・鳴尾GC
日本シニアオープンを制して渡辺キャディーと2ショットの倉本昌弘(右)=兵庫・鳴尾GC

 シニアゴルフの最高峰「日本シニアオープン」で倉本昌弘(55)が優勝して、自身初めての賞金王への夢が高まっています。レギュラーツアー通算30勝の永久シード選手・倉本ですが、「賞金王」の体験は一度もありません。ゴルフ界では理論派と知られ、日本プロゴルフ協会(PGA)と日本ゴルフツアー機構(JGTO)の分裂の際にも大きな影響力を発揮したことでも有名です。難コース「鳴尾ゴルフ倶楽部(兵庫県川西市)、パー70」を4日間通算2オーバーで制しましたが、最終日、16番からの上がり3ホールを3連続ボギーとして、なおかつ優勝という”珍記録”を聞かれて「そんなのは計算ずく。ゴルフは1ストロークだけ勝てばいいんでしょう!」と、憤然と言い返した優勝インタビューも倉本らしいシーンでした。
 
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90年の歴史を重ねた名門・鳴尾GC。1番(向こう側)と14番(手前)はティーグラウンドが共有。1番は右へ、14番は左へ打つ(日本シニアOP)
90年の歴史を重ねた名門・鳴尾GC。1番(向こう側)と14番(手前)はティーグラウンドが共有。1番は右へ、14番は左へ打つ(日本シニアOP)

 日本最古のゴルフクラブ「神戸ゴルフクラブ」(1903年創立)に続く1920年に設立された鳴尾GCは、90年の歴史を刻んだ名門としてしられています。自然を生かした18ホールは変化に富み、要所要所に配置されたバンカーはアゴの高いアリソンバンカーで選手を悩ませます。1951年の日本オープン以来、59年ぶりのナショナルオープンの開催でコース設定もハードに仕上がりました。6,602ヤードしかないのですが、フェアウェイは狭められ、極端なホールは、第1打の落下付近は僅か数メートルしかないという絞り方でした。秋の大会とはいえ、伸ばしたラフはボールがすっぽりと沈んで、思うようなショットをさせてくれませんでした。

最終日も雨中戦となった今年の日本シニアOP。雨にも、厳しいコース設定にも負けなかった倉本昌弘のショット(兵庫・鳴尾GC)
最終日も雨中戦となった今年の日本シニアOP。雨にも、厳しいコース設定にも負けなかった倉本昌弘のショット(兵庫・鳴尾GC)

 高麗グリーンであることも鳴尾の特徴ですが、「日本一、いや世界一の高麗グリーンだった」(倉本昌弘)というほどの仕上がりで、下手なベントグリーンよりはよほど速いスピードを持っていました。2日目にはもうアンダーパーの選手はいなくなり、勝った倉本は、初日76で43位の出遅れスタート。よくぞここからばん回したものだと、感心させられます。台風14号の余波をうけて初日は日没サスペンドの大荒れ、2日目は強風でさらに厳しい試合になりましたが、倉本は2日目1アンダーで回り12位、3日目はアウトで1つボギーがあっただけで、インでは4バーディーの31で「67」と驚異的なスコアをマークして2打差の2位に上がってきたのです。
 
 最終日も14番を終わって4バーディー、1ボギーで3つスコアを伸ばし、通算1アンダーで2位に4打差をつける快走ぶりでした。ただ1人のアンダーパーで優勝かにみえた大詰め、倉本は16番からの上がり3ホールを3連続ボギーとして通算2オーバーまでスコアを落としたのです。追っかけてくる選手がいなかったのです。それでも倉本は2位に2打差をつけて逃げ切ったのですから、いかに倉本の最終日のゴルフも他を圧していたがが分かります。
 

勝利の18番グリーン脇でTVインタビューに答える倉本昌弘(鳴尾GC)
勝利の18番グリーン脇でTVインタビューに答える倉本昌弘(鳴尾GC)

 優勝インタビューも倉本はユニークです。
「1番、ピンチだったのに6メートルのいいパーパットが入ったからね」
「午後は雨が降ると分かっていたから、みんなアンダーは出ないだろうと、イーブンパーでプレーできればと考えていたから」
「14番(パー5)はとりたいと思っていた。そうすれば、15番以降みんなが必死になると思った。その通りになった」
「あとは大たたきしないようにそれだけ。危ない方向へは絶対打たないように」
「14番で2位と4打差がついたので、16番以降は3ボギーでもいいと思った。4打もハンデをくれたんだからムリすることないでしょう」
「16番から3連続で落として優勝? 落としたんじゃない!絶対ダブルボギーとかOBを出さない安全運転をしてるんだ。ゴルフは1ストローク勝てばいいんでしょう。速報板はすべてチェックして、それなりのプレーをした。内容のないパーはいらないんだ。何もムリする必要はない。悪くてもボギーというプレーをした。終盤はグリーンの真ん中しか狙わなかったし、18番のティーショットもユーティリティの2番です」
 
 こんな具合の記者会見。05年にシニア入りした倉本は3年間米シニア(チャンピオンズツアー)に挑戦。昨年から日本に戻って日本のシニアに専念しています。07年に仙台で行われていたビッグライザックシニア(現在は消滅)に勝ったのに続いてシニア2勝目。シニアOPの優勝賞金1,600万円を加え、賞金ランキングは26,067,266円で1位に躍り出ました。今週の富士フィルム(優勝1,400万円)、最終戦のHANDA CUP シニアマスターズとシニアツアーは残り2試合。両試合とも倉本は出場しますので、賞金王への最短距離にいることは間違いありません。
 
 もし倉本が、生涯初の賞金王になったら何というか、そのコメントがみものです!