石川遼が3年連続でマスターズ出場が決定的になりました。三井住友VISA太平洋マスターズ(最終日14日、太平洋御殿場コース)で念願の大会初優勝を果たし、優勝賞金3000万円をゲット。今季3勝目を挙げて2年連続国内賞金王への逆転も見えてきましたが、この優勝によって来春のマスターズへの出場資格の一つである”年末の世界賞金ランキング50位以内”をキープすることが確実になりました(前週の45位から38位にアップ)。2年連続で予選落ちしているマスターズ、「3度目の正直」に燃える遼クン、いよいよ世界レベルのプレーヤーへと飛躍する2011年が見えてきました。
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富士山を間近かに仰ぐ御殿場コース。景色は日本有数のゴルフ場ですし、高速で有名なグリーンは「アメリカはじめ各地のコースでプレーしていますが、御殿場は世界ナンバーワンといっていい」(今田竜二)と、折り紙つきの仕上がりでした。コースメンテナンスもトップクラスで連日ギャラリーは大勢つめかけるなど(最終日は12,326人)、すべての面で本場のマスターズを目標にして作り上げている大会です。石川遼にいわせると、一面ガラス張りのレストランで富士山を眺めながら「こんなおいしい食事が一週間食べられると思っただけで楽しみになります」と、食事のおいしさも選手にとって御殿場コースの魅力の一つのようです。好みの選手を追ってフェアウエーを歩く人もいれば、ギャラリースタンド、あるいはスタジアム風になっている18番グリーンに居座って通過する選手を声援するなど、大勢のギャラリーが思い思いのスタイルで観戦し、選手に声援を送ります。「ある意味でオーガスタに近い雰囲気」(石川遼)というのも歴史を重ねた太平洋マスターズの魅力でしょう。
石川遼は4日間、しり上がりのゴルフを見せました。初日の14位(70)から、冷たい西風の強かった2日目はパープレーでしたが、順位は8位に上げました。風も収まった3日目は、グリーンを外した8番で右手前のカラーから10ヤードをチップインバーディー。続く9番は、右手前のバンカーに落としながら25ヤードほどあった見えないカップに直接放り込む”連続パットゼロ”のバーディーを披露。ギャラリーを興奮させました。その3日目はノーボギーの7バーディー、65でトップタイにのし上がりました。アウト(30)ではパット数8。ハーフの自己記録10を更新する技も見せつけた遼クンでした。
藤田寛之とトップタイで出た最終日は、1番でボギー発進しながらグイグイとスコアを上げていきました。4番から11番までの8ホールで6バーディー。2度の3連続もありました。前をいくブレンダン・ジョーンズが18番でイーグルを奪い1打差に迫られましたが、自身も18番(パー5)では2オンしてバーディーフィニッシュ、14アンダーは2打差をつけての逃げ切りでした。
年々上達の跡をみせてくれる遼クンですが、今年の御殿場ではコースマネージメントの進歩を痛感させられました。随所にそれはみられましたが、中でも9番(440ヤード、パー4)ではドライバーを持たず3Wでティーショットをしていました。ダラダラ上りのこのホール、距離的にはどうみても第1打はドライバーで飛ばすホールなのですが、今年の遼クンはあえて3Wを選びました。「9番は3番ウッドやアイアンで打つという考えはなかったホールでした。でもドライバーで打たないという選択肢が、今年初めて生まれました」といっています。ドライバで曲げる危険を犯すより、距離は残っても3Wで確実にフェアウェイキープを選んだのです。
かとおもうと、ほとんどの選手がドライバーは持たない10番(401ヤード、パー4)で今年の遼は最終日ドライバーを持ちました。フェアウェイ280ヤードの右サイドに大きな立ち木があり、左にはサイドバンカーがあります。3Wか4Wで立ち木の左フェアウェイへ運ぶのが常道なのですが、遼は「最終日、10番のティが普段より3、4ヤード前にあって0番アイアンで打っても(カーブしている)フェアウェイを突き抜けてしまう感じがあった。それならドライバーでいいショットを打てば、立ち木の前にいくと思いました。もし左ラフにいっても立ち木はスタイミーにはならないですから」と、胸中を明かしてくれました。結果、最高のドライバーを打ちフェアウェイをキープ。ピンまで60ヤードを確実にバーディーにつなげました。
攻めるところは攻め、抑えるところは抑えるというゴルフ本来のマネージメントが、遼クンにようやく備わってきました。「若いのだから何でも攻めないと進歩がない」と、厳しいところでもドライバーを振り回していたころとは大変な変身ぶりです。
もともとパットも上手い遼クンが、こうした頭脳的なプレーも兼ね備えてくれば、鬼に金棒です。「太平洋マスターズも今年で4回目になりますが、今年ほどティーショットをドライバー以外で打つ機会が多かったことはありません。逆に1番ホール(打ち下ろしのパー4)は左下に見えない池があるんですが、そこへは絶対いってはいけないという池への怖さで、今年は右へばかり逃げていいところからセカンドが打てなかった。自分の経験の中で、怖くなってくるということもあります。また1年経って、来年の1番ホール、ドライバーを握って左のバンカーを越えて残り100ヤードくらいのところへ大きいストレートボールを打てるような技術を持って帰ってきたいなと思います」と、述懐していました。
19歳、プロ3年目、石川遼のすばらしい成長の奇跡でしょう。