国内女子ツアーで有村智恵(24)が今季日本人初の2勝目を挙げ、強い韓国勢にストップをかけました。この有村智恵、富士山ろくに広がる山岳コース、静岡・東名カントリークラブでめっぽう強く、スタンレーレディスは昨年に続く2連覇で大会3勝目。その前にはプレーオフで負けて2位という年もあって、まさに“東名の女王”、“スタンレーの鬼”といったところ。昨年痛めた左手首痛も完治しないまま、今季も前半戦を終わって4764万3333円を稼ぎ、賞金ランキング6位に浮上。ツアー通算12勝を挙げるトッププレーヤーにのし上がってきました。
東名に強い智恵にスポットを・・!
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7月前半は梅雨の真っ盛り。この時期に開催するスタンレーは毎年のように天候に泣かされます。今年も初日は濃霧で2時間近い競技中断があって結局は日没サスペンデッド。2日目もコース修復で時間を費やし、やっと1Rの残りを消化しただけ。試合は2日目を中止し、日曜日と2日間だけで36ホール競技に変更されましたが、さらに日曜日も濃霧でスタートが2時間以上遅れ、霧の影響が少ないインコース9ホールの勝負となり、結局27ホール競技に短縮される始末。この大会は、雨と縁が切れません。07年にも台風接近で2日目を9ホール、最終日は競技中止で27ホールに短縮。ただ同スコアで上田桃子、有村智恵、横峯さくらの3人が並んでいたため、優勝者を決めるプレオフだけを行う事態でした。また09年も最終ラウンドが濃霧のため9ホールに短縮され、ここでも有村智恵が勝っています。余談になりますが、あまりにも天候不順が続くこの時期に、業を煮やした?主催者は、来年以降スタンレーレディスの開催時期を遅らせる措置を取ることが濃厚になりました。
雨に悩まされる7月の東名コースでやけに強いのが有村智恵です。今年もトップに立つ森田理香子を追って、最終日1打差2位から出た有村は「9ホール勝負」の短期決戦に見事な集中力をみせました。いきなりスタートの10番(パー3)でグリーンを外してボギーにした森田は「今までにないほど緊張した」と、アプローチやパターに乱れが出て、12番でもボギーにして首位から転げ落ちました。対する有村は、ショットもパットも1打1打に怖いほどの集中力をみせました。前週テレビで見た全米女子オープン優勝のチェ・ナヨン(韓国)が「ショットもパットも、目標通り打てるイメージが固まってからでないと打たない」と語ったコメントが心に残り、自分もこれを実践したそうです。14番(パー4)では、5メートルのバーディーパット。「風でボールが揺れていた」(有村)と、いったんアドレスを解き、ボールを置きなおしてこのパットを確実に沈めました。このバーディーで2位との差は2打に広がり、逆転勝利に結びつけたのです。
それにしても有村、東名CCと相性がいいのか、スタンレーレディスとの相性がいいのか。珍しい“実績”を残しています。「ホント、つくづく相性がいいですね。今回はプロアマでも私のチームが勝ちました。コースから愛してもらってるのかな」と笑いが止まりません。06年7月、有村はプロテストを一発でトップ合格。その年のQT(最終予選会)3位で通過。07年からツアーにフル参戦しました。そのルーキーイヤーで早くも“有村と東名”の因縁は始まるのです。スタンレーレディスは最終日が台風接近で中止となり、トップに並んでいた上田桃子、横峯さくら、有村智恵の3人だけによる優勝決定プレーオフ(3ホールのストロークプレー)が行われました。まず横峯が脱落。上田と有村は3ホールすべてパーで決着がつかず、サドンデスの勝負です。ホールは全て16番のパー3ホール使用で、その1ホール目、上田が右3.5メートルにつけると、有村は下2メートルに乗せ、ともにバーディーチャンスです。ここでまず上田が執念をみせてこの3.5メートルを沈めると、それより近い有村のパットはカップの脇をすり抜けて上田に軍配が上がりました。グリーンサイドで誰はばかることなく号泣した新人の有村が印象的でした。
09年のスタンレーも最終日が濃霧で9ホールの短縮となり、有村が勝ちました。11年のスタンレーでは初日、有村は8番(パー5)で第2打の190ヤードをユーティリティの3番でピン手前5メートルに2オンさせ、球はそのままカップイン。パーより3つ少ないアルバトロスを達成しました。奇跡は続き、16番(パー3)、8番アイアンのショットは、ピン手前5メートルに落ちてころころと転がりカップインするホールインワン。有村はクラブを落とし、“どうしよう、怖い!”と、キャディーに叫んだのも語り草ですが、アルバトロスとホールインワン同日達成という「3万年に1度」のとてつもない奇跡を体験。それを優勝に結びつけました。その翌日の2日目にも8番で2オンしてイーグル、16番では1.5メートルにつけてバーディーと“再演”をしてみせたのも、有村らしい執念でした。今年はまた、最終日が9ホールに短縮された大会で逆転劇をみせつけたのですから驚きです。
スタンレーレディスは今年で24回目を迎えた老舗大会。第1回大会の優勝者は吉川なよ子、第2回は岡本綾子・・という懐かしい名前がみえますが、埼玉・秩父のコースで14回開催し、03年から富士山ろくに広がる山岳コースの静岡・東名に舞台を移して今年で10回目。うち優勝3回と2位1回を有村が占めているのですから、まさに智恵は“東名の女王”です。
有村智恵というプロはまた何かを秘めたプレーヤーです。プロテストで2位に7打差をつけたトップ合格もそうですが、08年、プロミスレディスでは2位に5打差をつけたプロ初優勝でした。この年の明治チョコレートカップ最終日には、ツアータイ(当時)の7連続バーディーで驚かせ、09年4月のフジサンケイ初日には、史上9人目のアルバトロスをやっています。09年11月の大王製紙エリエール2日目にはツアータイの「62」を出し、通算20アンダー、2位に8打差をつけた優勝もしています(年間5勝で最終戦まで賞金女王争いをして横峯さくらに敗れ3位)。11年の国内開幕前週には、シンガポールで行われた米ツアー、HSBCチャンピオンズで3日間首位に立ち、最終日に1打差でカリー・ウェブ(豪)に及ばず2位になる惜しい試合も経験しています。
何かをしでかす“小さな大選手”(159cm57kg)へと進化している有村ですが、昨年夏、左手首に異常を訴え、このオフは治療に専念、今季開幕から3試合は大事をとって欠場するなど体調にかげりが見えるのが心配です。完治はしていないといいながらも昨年10月には森永製菓で勝って通算10勝目。今季もすでに2勝を挙げているのですから、不死身の執念には驚かされます。まだ経験のないメジャーでの勝利と賞金女王。さらに「来年は海外メジャーにも挑戦したい」と、初めて海外への夢も語り始めた智恵です。