「夢なんじゃないかな」ープロ4年目、25歳の未勝利男・岩崎亜久竜(いわさき・あぐり)が思わずつぶやいた涙のホールアウトでした。国内最高峰の「日本オープンゴルフ」最終日(15日、大阪・茨木CC西コース、パー70)が行われ、3打差7位から出た岩崎は5アンダー「65」をマーク、バックナインでは1打を争った石川遼を振り切り、通算8アンダーでの逆転勝利。ツアー初優勝がメジャーの「日本オープン」だったのは国内男子7人目(1973年ツアー施行後)。昨年の国内賞金ランキング3位の資格で今季は欧州ツアー(DPワールド)を主戦場としていた岩崎ですが、欧州15試合で予選通過は3回だけ。60位がベストと上位に入った大会はなく苦戦続き。打ちのめされて国内で出た9試合も不振で、10試合目にして“突然”手にしたビッグタイトルは衝撃的で、亜久竜のゴルフ人生の、一大転機となりそうな1週間でした。
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日本オープンの大舞台。タフな設定の難コース茨木・西。そんな中で亜久竜のゴルフはたくましく成長していました。毎週、違う国へ移動しながら戦う欧州の過酷なゴルフツアー。気候も芝質も違い、移動に時間をとられて思うような練習量もままならない。その厳しい環境で苦労した末に身につけた岩崎の攻めのゴルフ。「難しいコンディションやピンポジションに悩まされたけど、その分鍛えられたのでしょうね」とアグリ。日本オープンの難セッティングも攻め切って、大きな栄冠を勝ちとったのです。
181cmの長身を生かした飛距離と攻撃的なゴルフは以前から評判で、多くの見せ場をつくってきました。静岡・清水町生まれ。8歳から父の手ほどきでゴルフを始め“亜久竜(あぐり)”という名前は「海外でも通用するように」とつけられたという。クラーク国際高から日大へ進み、20年9月にプロ転向。21年からABEMAツアー中心で戦い、21年のQT(出場予選会)9位で22年からはレギュラーツアーへ。優勝こそありませんでしたが、22年は3度の2位を含む10度のトップ10入りで賞金ランク3位と大きく躍進しました。その資格で今年からは比嘉一貴、星野陸也らとともに欧州ツアーを主戦場としていました。
今回の最終日、前半から好調なショットで4つのバーディーを奪い、折り返し点でトップを走っていた平本世中をかわして単独首位に。後半、今度は石川遼の厳しい追い上げに耐え続けました。2位に1打差で迎えた最終18番(パー5)で第1打を右林に曲げ、テレビ塔の障害物による救済を受けたものの、大きな木の枝が邪魔になる大ピンチ。グリーンまでは230ヤード超。グリーン手前から左サイドには池が広がります。いったん安全にフェアウェイに出し3打目勝負かと思われましたが、アグリの攻めのゴルフは違いました。4番アイアンで向こうサイドに広がる池方向を狙い、左からの風に乗せて大きく右に曲がるインテンショナルスライスで果敢に挑戦。狙い通りの軌道で見事に手前10mに2オン成功。イーグルパットは成りませんでしたが、2パットでリードを2打に広げるとどめのバーディーフィニッシュ。“日本一”の座を手繰り寄せたアグリの記憶に残るスーパーショットでした。
「打つ方向を考えましたが、ボールのライがそこまで深いラフではなかったので、いける自信があった。よかったです」とアグリ。岩崎の魅力は、こうした攻めの姿勢を失わないところでしょう。その精度をこのところグンと高めているのがみどころです。
勝利がきまった18番グリーンサイドでは大勢のギャラリーの大拍手とタッチ攻めを受ける大ヒーロー。観戦に訪れていた親交のある谷口徹プロと熱い抱擁をかわすと、一度に感極まった涙があふれました。
優勝インタビューです。
「今までのことをいろいろ思い出して、夢なんじゃないかっていう感じもあったけど、本当にうれしかった。欧州てもうまくいかないことばかりだったのに、やっといいゴルフができました。今後に向けて大きな自信になる。欧州参戦で足りないところも分かってきた。これからもどんどん勝って、見てくださるギャラリーを楽しませられるように頑張りたいです」ファンにはさらなる飛躍を力強く誓うアグリ君でした。
欧州ツアーで費やした費用を埋め合わせられる優勝賞金4200万円のビッグマネーも嬉しいですが、それにも増してプロゴルファー・岩崎亜久竜を一段と大きくする「日本オープン覇者」の称号に勝るものはないでしょう。国内5年シードに加え、次週の「ZOZOチャンピオンシップ」(千葉・習志野=米ツアー)への出場も確定的。さらに来季の「全英オープン」への出場権もこの優勝でゲットしました。来季は国内ツアーに専念するようですが「将来は松山(英樹)さんと同じところで」と、米ツアー参戦の夢を胸に秘めています。
【日本オープンでツアー初優勝した7選手】
菊池勝司(1980年)
羽川豊 (1981年)
伊澤利光(1995年)
デービッド・スメイル(2002年)
小田龍一(2009年)
稲森佑貴(2018年)
岩崎亜久竜(2023年)
(了)