入場料収入で運営された「とおとうみ浜松OP」! TVは4日間、各5時間の生中継。

メインスポンサーのいない地域・市民参加型の「とおとうみ浜松OP」。試合後は優勝した小林正則プロを囲んで"主役"だったボランティアの記念撮影。(静岡・グランディ浜名湖GC) =写真提供:JGTO。
メインスポンサーのいない地域・市民参加型の「とおとうみ浜松OP」。試合後は優勝した小林正則プロを囲んで"主役"だったボランティアの記念撮影。(静岡・グランディ浜名湖GC) =写真提供:JGTO。

 ツアー未勝利、シード権も持たない35歳が、なんと飛ぶ鳥を落とす石川遼をプレーオフで下してプロ14年目でツアー初勝利をつかみました。小林正則。千葉県出身。東京学館浦安高⇒日大卒。独身。前週39歳で初優勝をメジャーの日本プロ日清杯で飾った河井博大に続く2週連続での”無名”によるツアー制覇。男子ツアー戦線に異常あり!の感もぬぐえませんが、この試合「とおとうみ浜松オープン」(静岡・グランディ浜名湖GC)は、メインスポーンサーがなく、原則的にはギャラリーの入場料で大会をまかなう地域・市民参加型”みんなでつくるゴルフトーナメント”だったのも異例です。BS-TBSが初日から各日約5時間、4日間計20時間余にわたって生中継放送したのも珍しいことで、すべてに新たな運営形態を打ち出したゴルフトーナメントといえるものでした。
 
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石川遼をプレーオフで破ったプロ14年目、ツアー初優勝の小林正則(静岡・グランディ浜名湖GC) =写真提供:JGTO。
石川遼をプレーオフで破ったプロ14年目、ツアー初優勝の小林正則(静岡・グランディ浜名湖GC) =写真提供:JGTO。

 石川遼の最終18番。3メートルをきわどく沈めたバーディーで追いついき、小林正則との20アンダー同士のプレーオフ。1ホール目は両者パー。同じ18番(パー5)で繰り返した2ホール目。フェアウェイ中央に運んだ小林に対して、石川は右のラフ。残りはともに約240ヤード。石川が3Iで2オンを狙ったが、グリーン左のバンカー。小林は同じ3Iでグりーン奥6メートルに2オン。「あのセカンドでとどめを刺された」ともらした石川のバンカーショット(25ヤード)は、いまひとつ寄りきらずにカップ2メートル。小林のイーグルパットは僅かに外れましたが、もう”OKバーディー”の距離。追い込まれた遼の2メートル弱にプレッシャーがかかります。普通なら外しそうにないこの2メートル弱が、カップにけられてバーディー成らず。慎重にタップインした小林のバーディーで勝負がつきました。
 

プレーオフ2ホール目で"未勝利"の小林正則に敗れた石川遼(とおとうみ浜松OP=グランディ浜名湖) =写真提供:JGTO。
プレーオフ2ホール目で"未勝利"の小林正則に敗れた石川遼(とおとうみ浜松OP=グランディ浜名湖) =写真提供:JGTO。

 前週の河井博大は涙、涙の初優勝だったですが、小林正則に涙はありませんでした。「最後のパットも遼は入れてくると思っていたので、入れるつもり(イーグル)で打ちました。相手は遼だし、まさか勝てるなんて・・。夢みたいです。浜松のみなさんの手で作られた1回目のすばらしい大会で勝ててうれしいですね。最後まであきらめないでやってよかったです」と、第一声も落ち着いた話しっぷり。プレスインタビューでは「大丈夫ですかね。遼クンファンの敵になってしまったんじゃないですかね?」と、石川遼をやっつけたことに気を使ったが「プレーオフもその前も、こんな僕にも思いのほかたくさんの声援をもらって鳥肌がたちました」と、素直な感激もみせていました。
 
 小林は日大時代にも大きな戦績はなく、1999年にプロデビュー。長身(186センチ)を生かしての”飛ばし屋”として注目され、時折上位にくることはありましたが、2000年のチャレンジ競技(下部ツアー)で2勝して賞金ランク1位になって02年03年に晴れてシード入りしたのが精一杯でした。04年にはシードを失い、ショットイップスにも悩まされて05年から3年間は賞金0円の生活が続きました。もっぱらチャレンジ競技中心で、復調の兆しのみえた10年には同賞金ランク3位に入って今年のツアー出場資格を得ました。まさに8年ぶりのシード復権を狙うシーズンでしたが、一気に初優勝というビッグな獲物を捕まえました。
 今週は安定したショットと好調なパットが目につきましたが、何よりも石川遼とも対等に渡り合った”飛距離”が小林の大きな武器です。昨季もツアーは僅か3試合しか出場していませが、参考記録でドライビングディスタンスは298.25ヤード。ツアーランキングに当てはめますと、石川遼を凌ぐ3位に相当します。いかにロングヒッターであるかがお分かりでしょう。出場資格を得た今年の小林は、これまで東建ホームメイト54位タイ。つるや44位タイ。中日クラウンズ17位タイ。日本プロ日清カップ予選落ち、でした。飛距離は、一発はまると大きな武器になることを証明しました。
 
 ところで、この大会はこれまでの日本のゴルフトーナメントにはない新しいタイプの試合でした。既存のスポンサーや一つの企業が主催するトーナメントではなく、浜松市民のみんなで作り上げる大会(主催:合同会社ボランタリートーナメント浜松)です。「地産地消」のトーナメントを目指す一方で、大会チケットの販売や運営に必要な設備、機能を地域住民や企業の手で担い、トーナメントの経済効果が地域経済に還元される仕組みを構築することでした。地元企業はじめいくつかのサポーターはいましたが、メインスポンサーはなく、あくまでも入場料収入で経費をまかなうのが原則でした。
 
 入場券は月曜の練習日から日曜のトーナメント最終日までの7枚綴りで21,000円。3月31日までに購入された方には抽選で開催記念パーティー・プロアマ大会参加抽選券付きでした。プロアマ大会は、通常の企業スポンサー関係者が出場するのではなく、抽選に当たったファン2人が各組でプロとプレーする方式でした。 練習日からプロアマ大会までの毎日、選手との交流は自由でカメラもOKというファン中心の″お祭り的〝な大会。当日券は、プロアマ大会(水曜日)5,000円、初日・2日目(木・金曜日)4,500円、3日目(土曜日)5,500円、最終日(日曜日)6,500円です。
 21,000円の通し券が前売りで5,410枚売れていて、これだけで1億1,361万円となり、これに当日券が相当数売れていることから賞金分(総額1億円=優勝2,000万円)は完全にペイできている勘定です。
 
 こうした試みに賛同したのが、中継するTBSでした。BSではありますが、4日間を通じて各日約5時間、4日間では約20時間の長時間中継に踏み切ったのです。初日、2日目は午前10時から14時54分まで。3日目は午前9時30分から14時24分まで。最終日は午前11時30分からプレーオフが終わったあとの17時まで5時間30分の完全生放送を行いました。海外ツアーなどではツアーを朝から夕まで完全カバーする有料放送はありますが、日本でのこうした放送は珍しいことです。数組にはキャディーにマイクを持たせて選手とのやりとりがお茶の間で聞けるという大サービスも敢行しました。
 7月に迫った地デジ時代を想定した幅広い放送を目指しているTBSのテストでもあったようです。短い放送時間枠ですと、どうしても石川遼中心の放映になってしまうのですが、BSで長時間放送ですと、石川遼に集中することなく、広く優勝争いの選手を追いかける″余裕〝ができます。事実、今回の中継では多くの選手のプレーを見ることができましたし、最後は石川遼がプレーオフに登場するという最高の演出になりました。TBSも万々歳でしょうし、視聴者を喜ばせた大会でもありました。
 
 従来のプロゴルフトーナメント方式を打ち破った今回の「とおとうみ浜松オープン」。四日間の男子トーナメントを開催するには普通ですと4~5億円はかかると言われています。この大会、入場料だけでは収支的にはまだまだ厳しいものが残ったことでしょう。20アンダーが簡単に出るコース設定にも?マークが付きますが、しかしゴルフトーナメントの新たな形態としての一石を投じたことだけは確かでしょう。トーナメントの4日間のギャラリー数は計1万8,137人でした。
 ちなみに「とおとうみ」とは、駿河や尾張などといったのと同じ旧国名で、「遠江」と表記されます。