“テキサス ウェッジ”がまた流行る!?グリーンの外からパターで転がしあげた”プロ日本一”河井博大

プロ16年目の初優勝をメジャーの日本プロで挙げた河井博大。喜びの優勝トロフィーを両手に。(兵庫・小野東洋GC)
プロ16年目の初優勝をメジャーの日本プロで挙げた河井博大。喜びの優勝トロフィーを両手に。(兵庫・小野東洋GC)

 プロ16年目、”無名”の河井博大(かわいひろお)が、ツアー初優勝をメジャータイトルで飾るどでかいことをやってのけました。日本最古の歴史を重ねる日本プロゴルフ選手権日清カップ(兵庫・小野東洋GC)。2日目に立った首位を守り抜いた堂々の勝利でしたが、河井が駆使した武器は、グリーンの外からでもパターでボールを転がしあげる特殊技。荒地に造成されたコースが多く、風も強い米・テキサス地方の試合で、古くから用いられたことから、これを「テキサスウェッジ」と呼ばれます。勝負どころで多用して成功した河井は、まさに”テキサスウェッジの王者”。パット数は4日間とも20台、平均では「26」が勝因でした。39歳になるまで勝てなかった河井博大とはどんな男でしょう?
 
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16年目につかんだ初優勝。河井博大はこれまでの苦しかった道のりにTVインタビューで涙が止まらなかった。(兵庫・小野東洋GC)
16年目につかんだ初優勝。河井博大はこれまでの苦しかった道のりにTVインタビューで涙が止まらなかった。(兵庫・小野東洋GC)

 最終日、韓国の賞金王(08、09年)裵相文と並んでいた17番(パー3)。河井は伝家の宝刀「テキサスウェッジ」でグリーン手前エッジから7メートルをねじ込みました。勝利を決定づけたバーディーでした。これで9アンダーとして勝利をつかんだ河井は、18番グリーンでのTV勝利インタビューでもう涙があふれてとまりませんでした。「最後のパットを入れたとき何も考えられなかった。ただ、僕はこの一瞬のためにこれまで苦労をしてやってきたんだ。辞めないでよかった!」。
 

表彰式のあと、河井博大は大勢のボランティアと一緒に優勝を伝えるスクリーンの前で記念撮影(小野東洋GC)
表彰式のあと、河井博大は大勢のボランティアと一緒に優勝を伝えるスクリーンの前で記念撮影(小野東洋GC)

 兵庫・広野GCで3年間一緒に研修生をしていた松村卓キャディー(37)と抱き合って勝利を確認をすると、グリーン脇で待っていた師匠・田中秀道の腕の中に飛び込むようにして感涙にむせびました。気の弱かった河井を励まし「考え方も打ち方も変えていかないと、シードはとれても勝てない」と厳しいムチを打ってきた秀道は、同じ瀬戸内高の1年先輩。ゴルフ以外のプライベートでは思うがままに生きてきた河井なのに、ゴルフになるとすべてにきっちりとやらなくては気がすまないタイプ。秀道先輩は「そのギャップが大き過ぎる。ゴルフだって歩きながらボールのところへきたらそのままサッと打て。”無”でボールを打っていくんだ」と、口を酸っぱくしてさとしました。「練習ではできても試合でやっていくのは難しかったが、そうした訓練でだんだん僕の頭が洗脳されました」(河井)。
 
 広島出身。瀬戸内高から日大を経て1996年プロ転向。99年QT(ツアー出場への最終予選会)4位で2000年からツアーに登場、その年はシード権を取りましたが1年でシード落ち。QT受験を都合8回も繰り返した中で04年は賞金ゼロ。QTも落ちてどん底も味わいました。2度目にとったシードもすぐ07年に失い、QTも予選落ちしたときは「もうゴルフを辞めてほかの職業を探そうかと考えた」と覚悟をしたそうです。しかし秀道先輩からは「辞めるな」とたしなめられ、自分もゴルフが好きで辞められなかったそうです。
 08年のQT8位で09年のツアーに出て3度目のシード(賞金ランク64位)を獲得、10年は賞金42位と順位を上げて初めてシードを守りました。11年についに大魚をつかみとる快挙につなげたのです。
 

181センチの長身から打ち出す河井博大のドライバーは、距離よりも正確さが特徴。(兵庫・小野東洋GC)
181センチの長身から打ち出す河井博大のドライバーは、距離よりも正確さが特徴。(兵庫・小野東洋GC)

 上背はある(181センチ)のに、ドライバーは飛ぶ方でもない。フェアウェイキープやパーオン率で支えてきたショットメーカーです。パットも決して上手ではなかったのですが、前週の中日クラウンズのときに友人から薦められてピン型から白いマレット型(テーラーメイド、ロッサコルザゴーストAGSI+)に替えたらとたんにパット数が少なくなりました。「構えやすいこともあるが、テークバックがとてもとりやすくなった」と、これを駆使しての、まさにパット・イズ・マネーのゴルフでした。初日こそ29パットでしたが、風の出た2R(5.8メートル)は23パットでベストスコア67を出し、首位に浮上しました。さらに風が増した3R(7.0メートル)もパット数27で69。最終日(5.0メートル)は25パット。首位に並んでいた08年、09年の韓国ツアー賞金王・裵相文と最後まで堂々と渡りって最後突き放しました。最終日もたびたび「テキサスウェッジ」が働きました。
 
 14番で花道から25ヤードを迷わずパターを持って寄せました(ボギー)。裵(べ)と8アンダーで並んでいた17番(パー3)は、グリーン手前のエッジから7メートルでしたが、またパターで見事なバーディーを取り、これがウィニングパットになりました。18番もグリーン右のエッジからパターで寄せて90センチのパーパットにもっていきました。とにかくグリーンの外の芝生から打つパターが上手いのです。
 
 「17番のときはグリーンから1ヤードくらい外でした。僕はアプローチには自信がないので、自信を持っているパターで寄せるんです。確率が高いクラブがパターなんです。その練習もしています。グリーン上からのパットは距離を気にして”緩む”ことが多いのですが、エッジの芝をかまして打つときは、その分強くしっかり打てるんです。逆にいいパッティングができるのでこれを前からやってます」(河井)。
 
 前週パターを替えてからは、100位より下だった河井の平均パット数が、100位以内に入ってきました。まさに”テキサスウェッジ”の効用抜群というところです。グリーン回りからカッコよくウェッジを使ってザックリやトップで失敗するよりは、スコア重視のなりふり構わぬパターでの”転がし”が、また流行するかも知れません!