石川遼(24)が3年目の米ツアー挑戦を終えて9月上旬に帰国。国内ツアーに2試合登場して話題を集めました。米ツアーではまだ優勝はなく、苦戦の続く日々。今季もレギュラーシーズン最終戦(ウインダム選手権)で辛うじて来季のシード権を確保する薄氷のシーズンを送りました。帰国第1戦の非ツアー大会、片山晋呉招待ネスレ日本マッチプレー選手権に1回戦で敗れて期待を裏切りましたが、翌週のツアー第1戦、ANAオープンで″強い石川遼〝を見せて面目を保ちました。第2戦のアジアパシフィックオープン・ダイヤモンドカップ(茨城・大利根CC西コース)では一転して大荒れのゴルフで、最終日には7つもスコアを落として通算5オーバー。67人中52位と大失速でした。一体、どちらが本当の遼クンなのか?今週のトップ杯東海クラシックにも出たあと、来季の米ツアー開幕戦(10月15日フライズコム・オープン)に備える遼クンですが・・。
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遼クンはこの9月17日で24歳の誕生日を迎えました。東京・杉並学院高1年だった15歳8ヵ月でマンシングウェアKSBカップ(07年)にアマチュア優勝してから、もう9年が経ちました。その間、8億円になんなんとするビッグマネーを稼ぎ″時の人〝となりましたが、米ツアーでは3年間″苦戦〝が続いています。
1年目の13年は23試合で11回の予選落ち。賞金ランク141位で翌年の賞金シードをとれず、下部ツアーの″入れ替え戦〝に出て、辛うじて翌年のツアー出場優先ランク13位で生き返りました。2年目の14年はフェデックス・ポイントランク72位で何とかシード権を確保。3年目の今季は、レギュラーシーズンは27試合で12試合予選落ち。トップテンに入ったのは僅か2試合。レギュラーシーズン最終戦(ウインダム選手権)までシード決定が持ち越される大苦戦でした。この試合で40位前後に入らなければシード確定にはならないという崖っぷちに立たされながら、通算9アンダー31位でフィニッシュ。きわどい″生き残り〝をつかみとりました。
この最終戦で年間フェデックス・ポイントは130位からギリギリの124位へ浮上。125位以内に与えられる来季のシードとプレーオフ(4戦)の第1戦出場資格も獲得しました。プレーオフでは第1戦のバークレイズで66位と振るわず、第2戦への出場資格となるポイントランク100位内に入れず、遼の今季の米ツアーは「終戦」となったのです。世界ランキングの方は、松山英樹の14位に対して石川は148位(9月27日現在)と″大差〝をつけられて米ツアー3年目は終わりました。
帰国した遼クンは、今季日本の試合には初登場の片山晋呉招待ネスレ日本マッチプレーが注目されましたが、1回戦で無名の1年生・堀川未来夢(22)に敗れる大波乱。「悔しい!」と唇をかみましたが、勝負の世界の厳しさを改めて知った1戦になりました。メンツをかけた翌週の
ツアー、ANAオープンでは攻めまくるゴルフに徹して″強い石川〝を見せつけました。パー3を除くほとんどのホールで第1打はドライバーを使用。4日間をすべて60台で回って他をよせつけませんでした。
最終日、2打リードで迎えた最終18番。第1打を右の林に入れた石川は、安全に出して仮にボギーになっても勝ちが決まるパー4。残り175ヤードの第2打を、5番アイアンで低く出して強烈に右に曲がるインテンショナル・スライスに挑戦。見事にグリーンエッジまで運び、パーで収めてフィニッシュしました。これまで「失敗を怖れたゴルフ」でゴルフが縮こまっていたと話し、この大会は「ドライバーで攻め抜いて、通算20アンダーになるか20オーバーになるか、どちらかだ」(石川)と意を決した″攻めるゴルフ〝が功を奏したのでした。
ANAに勝ったあと、石川遼がしみじみと語ったコメントです。
「アメリカでも、ファウラーもデーもスピースもマキロイも、みんな上になればなるほど自由にプレーしている。だれでも恐怖がある中、それとは一番遠いところでプレーしているのを自分も肌で感じていた。自分とは違っていた。マッチプレーで1回戦で負けてそれに気づかされた。自分は何のためにゴルフをしているのか。勝つために戦っているのを忘れていたんです。チャレンジを愛していきたいというか、チャレンジしていくのが好きというのが、自分の原点だったかなと思い返しました。どこかで失敗することへの恐怖が、、数年前より大きくなっていたのかなと思う。攻めて勝ったANAのときのようなゴルフをこれからのアメリカでもこのままやりたい。この先、アメリカでのプレーも変わっていくと思う。予選落ちを怖れず、これからも自分のやりたいゴルフを、自由にやっていきたい」
ゴルフは、いつも思い通りにすべてがうまくいくとは限りません。ドライバーで攻めまくるゴルフは、ひとつ間違えれば大たたきの原因にもなるリスクを秘めています。「挑戦することを怖がっていた」という反省には、、一つの答えは与えています。しかし、それが凶と出る試合もあります。
帰国第2戦の大利根のダイヤモンドカップに、早くもその一例が現れました。3日目68を出して首位と5打差の8位に上がってきた石川にかかった最終日への期待。2試合連続優勝か?!の盛り上がりの中で、遼は1バーディー、4ボギー、2ダブルボギーの77と大失速。一気に7つもスコアを落とし52位に沈みました。今大会は″攻めるゴルフ〝の武器の一つとして新型ヘッドに加え、シャフトを20グラム重くした(総重量350グラム)ドライバーを投入しました。「同じスピードで当たれば飛距離は伸びる」という計算です。「振り切れているときは球がねじれずに非常にいい球が打てている」(石川)と、試合前半は好感触を得ているようでしたが、最終日は「朝の練習場からクラブが重く感じていた」と、体調によっては振り切れない欠点も露出しました。名匠・井上誠一氏設計の大利根CCは戦略性に富んだコースでフェアウェイも曲がり、そんなには広くない。フラットなコースですが、グリーンは難しく砲台型が多い。エッジのスロープの芝生は短く刈り込まれて、グリーンを外すとボールはラフまで転がり落ちてしまいます。油断のならない大利根のワナに、最終日ははまってしまった遼です。6番ではセミラフからの第2打がフライヤーしてグリーン奥のOBゾーンまで打ち込みました。8番では右カラーから″4パット〝して相次ぐダブルボギー。バーディーは終盤17番(パー4)でやっと一つだけという大たたきでした。
「ドライバーでトラブルを作ったわけじゃない」(石川)と、新ドライバーも攻めるゴルフも変える気持ちはないようですが、「(クラブを重くすれば)体に影響が出るのは当たり前でしょうね。もっと体を作っていかなくてはね・・」と、深い反省にも迫られた遼クンでした。
晴れる日もあれば曇る日もあるトーナメントです。「1日10アンダーもあるけど、10オーバーもある。それは覚悟しています」と石川。すべてにシビアな異国の地、米国での日々に比べれば、日本に帰ってくればメンタル面でもリラックスして戦えるでしょう。米国のタフなコースに比べれば、日本のコースは″やさしい〝のも間違いありません。長年慣れ親しできた日本の芝生も、遼クンにはやさしいでしょう。昨年も途中帰国した長嶋茂雄招待セガサミーカップ(北海道・ザ・ノースカントリーGC)でも1勝しています。今年も帰国第1戦でのV。母国・日本で癒されながらの石川遼の復調を願う人達に、ぜひ″強い遼クン〝をみせてもらいたいものです。
次週も戦略性の高い愛知・三好CC西コースでのトップ杯東海クラシックに出場しますが「もっとアグレッシブにいきたい」とキッパリ。そして3週間後には15~16年度の米ツアーが開幕します。松山英樹に先を越された遼が、試行錯誤しながら、何杯も飲まされてきた苦汁を良薬にできるかどうか。目を離せません。