国内7人目の永久シード選手、片山晋呉(45)が、プロアマ戦で同伴の招待客アマチュア選手をないがしろにする態度をとったとして、そのアマ選手は1ホールだけでプレーを放棄するトラブルとなり波紋が広がっています。6月3日に大会を終えた日本ツアー選手権森ビル杯(茨城・宍戸ヒルズ)開幕前日の5月30日に行われたプロアマ戦での出来事。日本ゴルフツアー機構(JGTO)の準則には「プロアマで同伴アマチュアに不適切な対応をしたり、不快感を与えるような態度をしてはならない」と明記され、違反すれば懲戒・制裁の対象になると定めています。プロアマ戦でアマチュア選手がプレーを1ホールで断念するという前代未聞の事態に青木功JGTO会長も「極めて深刻な事態と受け止めている。不快な思いをされたアマチュアの方、森ビル(今回のメインスポンサー)はじめ関係者のみなさまにも深くお詫びしたい」とコメント。直ちに外部弁護士を含む調査委員会を設置。今月中には片山選手の処分を決定するとしています。低迷が続く男子ツアーとしては苦しい立場に。ツアー通算31勝。賞金王5回の永久シード選手が起こした事態だけに、業界や世間に与えた衝撃も大きく、どういう形で事態を収拾するか、注目です。
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事態はツアー選手権森ビル杯の開幕前日におきました。トーナメントは、開幕前日にはスポンサーを招き、一組に一人ずつプロを加えたプロアマ戦を行います。男子ツアーでは1試合の費用は4億から5億円といわれています。そのほとんどを支えてくれるスポンサー企業の関係者をもてなすのがプロアマ戦。ここに出場するプロは、かつては賞金ランキング等で決めましたが、現在はスポンサーが選ぶシステムも多くなっています。参加人数が多くなるプロアマ戦は、18ホール各ホールからスタートする「ショットガン方式」が通例。13番ホールからスタートした片山晋呉組は、1ホールが終わったところで片山プロがプレーの終わったグリーンに居残りパターの練習を繰り返していたというのです。次のティーグランドへ移動したアマチュアは同伴のプロとは交流を深めたい。聞きたいこともあるのでしょう。「プロ、こちらへ早くきてください」と声をかけたところ、片山プロは「前の組がまだ詰まっているでしょう・・」と応えて″自分の練習〝を続けたという。JGTOは6月6日にこのトラブルを公表しましたが、プロと招待客の細かいやり取りや、アマチュアが誰であったのかなど、詳細については明らかにしていません。ただプレーを放棄したのは1人だったとされています。
その間、片山プロとアマチュア選手との間になにかシビアなやり取り等があったのかどうか。片山プロの行為や態度にどれほどの非礼があったのか。不快感をつのらせたアマチュアが1ホールでプレーを放棄し引き上げたという異常な事態を重視したJGTO側は、すでに当事者からは聞き取りを済ませているという。さらに機構側の野村修也理事(中央大学法科大学院教授・弁護士)と外部弁護士からなる調査委員会を設置。詳しい経緯や内容、さらに機構側の事前指導や事後対策等の問題点を調査しています。6月中には懲戒・制裁委員会を開催して片山プロの処分の要否および内容を決定するとしています。
一方、選手会の石川遼会長も一連の件について次のようなコメントを出しました。
「今回のプロアマで起きてしまった件に関し、不愉快な思いをされたプロアマのお客様をはじめ、スポンサーや関係者のみなさんに大変なご迷惑をおかけし、またファンのみなさまにもご心配をおかけしたことを選手会として深くお詫びします。我々選手会も、JGTOと一丸となってファンやスポンサーから応援していただけるようなツアー改革作りを行い始めた矢先のこと。このような事態は遺憾で、とても残念でなりません。調査委員会の調査結果を待ちたいと思います」
今年は6年ぶりに米ツアーから日本ツアーに復帰。1月には選手会長に就任。ツアー改革へさまざまなアイデアを出している石川遼会長。予選落ちしたプロとファンが交流する″土曜プロアマ〝なども発案して、実施し始めたばかり。それに水を差すようなスポンサーサイドとの今回のトラブルは、泣きたい思いでしょう。
男子ツアーはここ数年、不況の波をもろにかぶり、人気選手の不在も加わってスポンサー離れに悩まされ続けています。若くて魅力的な新鋭が次々と出てくる女子ツアーに比べて、ファンを引きつけるようなプレーヤーが出てこない。試合数にも差が出て、女子ツアーが3月第1週に開幕し、11月末まで38試合がびっしり組まれているのに対し、男子ツアーはジリ貧状態。バブル期には年間40試合超を誇ったトーナメント数もいまや25試合(うち2試合はアジアンツアーと共催)。青木功会長が就任して3年目のシーズンになりましたが、試合数は増えるどころか、今季は昨年からまた1試合減の25試合というありさま。国内開幕は4月12日と遅く、5月の大型連休時に試合がなく、8月も僅か1試合という″冬の季節〝が続いています。年間の賞金総額も今季は女子の37億2500万円に対して、男子は35億775万円と遅れをとっています。今季のJGTOのスローガンのひとつに「スポンサーとの交流を密にし、マーケティングや選手教育の体制も整えて試合増を目指す」というのがありますが、この一件でまたスポンサーを失うようなことがもしあったら悲しいことです。
では、プロアマ戦でプロが終わったグリーンで練習をしてはいけないのか。スポンサーをもてなす一日であることは分かっていても、ついつい翌日からの本番を控えて、グリーンの状態をチェックしておきたくなるのも人情でしょう。これは片山プロだけでなく、従来から他の選手にもよく見られたシーンです。ある女子プロは「パターが終わったあと、もう1球だけ転がしてみることはよくあります」と述懐しています。ゴルファーであればその程度のプロの行動は許せるとも思えます。それも程度の問題で、スポンサーへの″おもてなし心〝をプロが忘れなければ問題は起きないと思えるのですが・・。
2015年には女子ツアー、中京TVブリヂストンの前日に行われたプロアマ戦で、藤田光里(23)の専属男子キャディーが藤田プロと口論になり、その後キャディーが業務をおざなりにするなどで同伴のアマチュアを不快にさせる事件がありました。日本女子プロ協会のトーナメント規定により、藤田に注意処分、帯同キャディーに「2週間の職務停止」処分がありました。今回の片山問題。アマチュアが強硬な態度に出たことから機構側も何らかの処分をしないわけにはいかないでしょう。規程によると、処分には「除名」「出場停止」の重い処分から、「制裁金」、「厳重注意」などが設けられています。
日本には7人しかいない永久シード選手の片山晋呉。日大時代からスロープレーや自己中心的な言動が取りざたされた選手だったことは事実です。その片山がまた起こしたトラブルだけに見る目も厳しいですが、プロ側に同情できる部分もないとはいえません。果たしてどんな裁定がくだされるか。これまでの片山プロ数々の栄光を失墜させたくはないのですが・・。
◆プロアマ大会◆
トーナメントの主催者がスポンサーや関係者を招いてもてなす大会。開幕前日にプロ1人、招待客3人によるチーム対抗戦で行われるケースが多い。参加プロは賞金ランク上位者やスポンサーからの推薦で選ばれ、プロにはギャラが出る。プロは、同伴のアマチュアとの会話や技術指導を求められている一方、翌日からの本番へ最後の調整をする場でもある。特別な理由なくプロアマを欠場すると罰則があり、男子では本戦に出場できない。男子は、プロが使用するバックティーをアマチュアと同じティーにして、同伴客との近親感を高めるサービスにも努めている。プロアマ戦が成功裏に終われば大会はほぼ成功、とする関係者もいるほど大切なイベント。(了)