50歳以上の日本一を決めるゴルフ日本シニアオープン(山梨・シャトレーゼヴィンテージGC)で手嶋多一(52)が大会初優勝。史上4人目の「日本オープン」とのダブル制覇を果たしました。5打差の首位から出た最終日、7バーディー、2ボギーのベストスコア66。通算19アンダー、265の大会最少ストローク、2位には大会最多の8打差をつけるなど記録づくめのメジャー大会初制覇でした。また、日本オープン・日本シニアオープンのメジャーダブル優勝は、青木功、中嶋常幸、谷口徹に続く4史上人目の快挙。2019年にシニア入りし開幕デビュー戦の金秀シニアで初勝利を挙げて以来、シニア3年目での偉業。レギュラーツアー8勝の中でも日本オープンはじめ日本プロ、カシオワールド、ミズノオープン・・とビッグトーナメントを得意としてきた手嶋が、シニアでもまた記録に残る「1勝」を印しました。
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南アルプス連峰から八ヶ岳をのぞむ風光明媚な舞台。台風14号が去って一層ひきしまった空気の中で、手嶋の巧みな技が冴えわたりました。トップに立った2日目からさらに日を追ってショットにキレが増してきました。「追っかけるより、逃げる方が難しい」といわれる勝負の世界。
3日目には7つのバーディー(1ボギー)を奪って2位との差を「5」としたあたりに手嶋の強さが溢れました。ところが「泊まっていたホテルが取れなくて、3日目の夜は別のホテルに移ったんですよ。それで余計に寝つきが悪くて、流れが変わったらどうしようかと思いました」と苦笑いでした。最終日の朝、不安を抱えて練習場に行きクラブを振ってみたら「感じが悪くなかったのでホッとした」という。「あとは自分の調子でいけばいいと思いましたね」と、トップを走る者の微妙な心理を打ち明けました。
スタート前にはグリーンキーパーと話しをしたという。「(グリーンを)もっと速くしようと思えばできるのですけど、(このコースの)グリーンの形状的にそうは速くできないといっていた。でもダウンヒルの順芽はすごく速い。で、普通だともう少し大きいストロークを、少し小さめにして打とうと心がけてやりました」(手嶋)。今大会からパターを変えたのも細心の処置でしたが「今週は久々にアタマを使いましたね。刻むところも多いし、グリーンの形状で絶対につけてはいけないところ、外してはいけない場所もしっかりアタマに入れた。ラフも右サイドは深くて、左サイドは浅いとかホテルの部屋でもメモを見直しました」とか。ホテルが変わったこともあって「電気を消したり、なかなか寝られなくてYoutubeを見たり、結果的に9時に寝て、起きたり寝たりを繰り返していた」という。2位との差が5つも離れて「考えちゃいました。逆に並んでいるぐらいの方が考えないかも知れないですね」と、百戦錬磨のベテランにして大きなリードを抱えて苦しかった“3日目の夜”を明かしました。
しかし、手嶋多一は普通ではありませんでした。最終日は2番で6㍍を入れてから再び“進撃”が始まりました。ショットの精度は落ちず、難しいパットも面白いように決まりました。ショットメーカーであるはずの男が、3つのパー5はすべて2オンを果たしてバーデイーに仕留めました。追ってくるはずの深堀圭一郎や鬼より怖いマークセンの追撃の手が、意外や鈍かったのも手嶋には幸いでした。逆に「5」あった2位との差は、大会最多差の「8」にまで広げて逃げ切りました。
「ちょうど20年前ですね。すごく名誉なこと。嬉しいですね」と、52歳のシニアは感慨深げにつぶやきました。埼玉・東京ゴルフクラブで2001年に開催された「日本オープン」で挙げたツアー2勝目は、32歳のときでした。尾崎将司、中嶋常幸、伊澤利光らそうそうたる実力者を抑えての“日本一”の座。そしていま再び「日本シニアオープン」のチャンプです。
福岡・田川市出身。7歳でゴルフを始め、ジュニア時代は「九州の怪童」といわれ、米国に憧れて米・東テネシー州立大卒業後、93年プロ合格。米国留学で磨かれた高い技術が、プロゴルファー手嶋多一に小技や勝ち方を教えました。
優勝賞金1600万円を加え、シニア賞金ランキングは5位(1832万6050円)に浮上。
シニア日本一を勝ち取った手嶋ですが、レギュラーツアーへの思いもまだ捨て切れません。今季も10試合余りのレギュラーに出場していますが、上位はありません。「最近は正直自信をなくしかけていたので、この勝利をレギュラーツアーにいま一度つなげたい」と、次週23日開幕の「パナソニックオープン」(京都・城陽CC)に照準を当てています。立ち止まることを知らない勝負師の、今週も見守りましょう。
(了)