″未完の大器〝がついにツアー初Vを果たして涙にむせぶシーンを見ました。プロ5年目の甲斐慎太郎、27歳。31日に終わったバナH杯KBCオーガスタ(福岡・芥屋GC)で10アンダーでの初優勝でした。日体大のアマチュア時代は日本アマ、日本学生などいくつものビッグタイトルを総なめにした″怪童〝。遅咲きで咲いた大輪の花でしたが、今年はパインバレー北京オープン(5月)、三菱ダイヤモンドカップ(6月)と相次ぐ2位で涙を飲むなど着実に腕を上げてきての初優勝です。今年はQT20位の資格で出場している甲斐が、晴れて初めての賞金シード選手を確定させた勝利でもありました。久々、大型プレーヤーのブレークは今後への期待がふくらみます。
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3日目に首位に立ち、最終日最終組での優勝争い。追ってくる宮里優作、星野英正らとのデッドヒート。初優勝がちらつく甲斐の体はコチコチ?「守らなければいけないし、攻めないといけない。苦しかった」と、前半何度かあったチャンスを逃がし続けます。6番から5連続バーディーの宮里優作に一時はトップを譲り「ボードを見て(宮里が上にいて)やっと楽になった」という心理は面白いものです。その直後9番で5メートルのバーディーパットが初めて沈みました。これでトップに再び並ぶと12、13番で連続バーディー。2打リードした17番(パー3)では花道からパターで転がしてパーをとり、18番(パー5)では飛ばし屋の甲斐があえて2打目を刻む安全策をとって上がりホールを守リ抜きました「ちょっと恥ずかしかったけど確率を考え、自分のゴルフに徹した」といった甲斐。まさに成長のあとをうかがわせる″詰め〝でした。
あれは6月1日の東広野GC18番でした。勝ったマークセンを1打差で追った甲斐は、残り263ヤードを3Wでグリーン左エッジへ運びました。逆転イーグルを狙ったチップショットは、カップへ向かってするすると伸びましたが、″あと2センチ〝のカップ間際で止まったのです。膝が崩れ落ち天を仰いだ甲斐の顔が忘れられません。後続のマークセンもここでバーディーをとり、甲斐はプレーオフにも持ち込めず結局は1打差の2位に泣いたのです。
しかし、甲斐は着実に腕を上げてきていたのです。この3試合前の北京オープンでも藤田寛之に3打差の2位でした。前半戦の活躍で初めてつかんだ全英オープンの切符でしたが、その全英では「何がなんだか分からなかった」という通り80、81。21オーバーで予選落ちという苦汁を飲まされました。これも今回の初優勝への貴重な経験となったのでしょう。日本で試合のないときはアジアンツアーにも出かけて行く武者修行もしました。
恵まれた体で飛ばし屋の甲斐は宮崎出身で福岡・沖学園高から日体大へ。九州アマ、関東アマ、日本アマ、日本学生・・と甲斐が手にしたアマチュアタイトルは堂々たるものです。その甲斐がプロの舞台に立ったとたんに鳴りを潜めたのは不思議なほどで「今年芽が出ないようならプロをやめよう」とまで追い詰められていたようです。スパルタで育てられた父親・稔さん(56)の前で胴上げされた甲斐の目には感激の涙が光っていました。昨年3月、実績のないまま結婚した智香夫人(24)に初めての子供が間もなく誕生する予定です。これでオヤジとしての働きができるようになった喜びでもあったのでしょう。
ゴルフ界で日体大の先輩には室田淳、伊澤利光、細川和彦、平塚哲二らがいますが、特に室田プロには日ごろから親しくもらいアドバイスももらう練習仲間です。その室田プロも「体が柔らかくて距離もでる。今年はその体を大きく使ってスイングするようになった。優勝を争った最終日にノーボギーで回ったのは大したものだ」と、ようやく花咲いた後輩にお褒めのコメントでした。賞金ランキングも5位に浮上(4412.9円)。
賞金の高い試合が続く秋の陣へ、人気の石川遼ブームとはまた違ったヒーローを目指す甲斐慎太郎です。