石川遼が“天敵”ともいうべき韓国の金庚泰(キム・キョンテ)に何度も優勝を阻止されていますが、今度は女子で福嶋晃子(38)が、韓国のNo1プレーヤー、アン・ソンジュ(23)に、軽井沢(NEC軽井沢72)で痛い目にあわされました。ここ数年来、韓国勢のパワーアップは本当にすさまじいものがあり、日本選手は戦々恐々の毎日です。初日からトップを走りながら最後にはプレーオフで敗れた福嶋晃子は、クラブハウスで号泣した悔しい敗戦。7人目の永久シード選手(通算国内30勝)にあと6勝と迫っているだけに貴重な「1勝」の逸勝!です。7月3日に2歳年下の電機関連の経営者と結婚したばかりの新婚Vもおあずけの晃子ですが、心優しい? 福嶋晃子の“弱さ”もチラリみえた軽井沢決戦でした。
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韓国選手として初めての日本女子賞金女王に昨年輝いたアン・ソンジュです。強いのは分かっていますが、今回の軽井沢では久々、福嶋晃子の週になるかと思われました。初日から快調な足取りでした。アウトは5バーディーの31。後半もボギーなしの1バーディーで「66」。今週から採用したテーラーメイドの白いヘッドのドライバーが爆発しました。1000メートルの高原にある軽井沢ではボールがよく飛びます。300ヤードドライブを随所にみせた福嶋は、断然の強みでした。しかも高原の洋芝、ターフを力強く取っていける彼女はこれが「大好き」なのです。パー5のロングホールはほとんど2オンできますし、パー4のホールは第2打を9Iかウェッジで狙える位置まで運びます。つまりほとんどのホールでバーディーチャンスを迎えらるのです。2日目もアウトは5バーディーの31。インも2バーディーで迎えた17番(グリーン手前に池があるパー3)。9番アイアンで打ちながら、手前のピンを狙いすぎて池ポチャする手痛いミスで初ボギーでした。それでも初日と同じ「66」。首位をがっちりキープしました。
しかし怖いのがアンです。2日間で12アンダーまで伸ばした福嶋についてこられない日本勢。それに反して、初日からピタリ2打差でつけていたのがアンです。2日目は晃子と同じ「66」で、影のように“2打差の2位”は変わりません。何とも不気味な存在で、迎えた最終日。4打差の3位に食い下がっていた横峯さくらと、賞金女王経験者3人による最終日・最終組は、見るものにとっては豪華でした。しかし、昨年夏から優勝のない福嶋の心は穏やかではなかったでしょう。アンと直接対決となった晃子は、2日目までのようにパットが入らなくなりました。前半でアンにひとつ縮められてリードは1打差となってバックナインの勝負です。
インではアンの猛反撃が始まります。4バーディーで3度単独トップを奪いますが、晃子もしぶとく3度ともトップタイに並びかけます。最終18番では決まれば優勝!の奥から15メートルのバーディーパットは「入ったと思った」(福嶋)瞬間、カップの縁で止まりました。結局、アン「66」。晃子「68」。2打差のリードはなくなり、二人そろって16アンダーでプレーオフです。
プレーオフは18番の繰り返し。1ホール目はともにパー。2ホール目。アンの2打目がフェアウェイのディボット(打球跡)にはまり込む不運。晃子につきが回ったかと思われましたが、アンはディボットに沈んだボールを力強いショットで打ち出し、ピンの右上9メートルと遠くでしたが、2オンを果たしました。不運をものともせずにグリーンに乗せてくる。韓国選手の精神力の強さをまざまざと見せつけたシーンでした。反してフェアウェイの好位置から打った晃子には、ピンそばにつけてアンを圧倒してほしかったのに、グリーンぎりぎりのカラー部分、7メートルにしか乗せられなかったあたりが物足りません。下りスライス、難しい9メートルをねじ込むアンのバーディーパットがこのあと飛び出します。強烈なこのバーディーで勝負は決まりました。望みを託した晃子のパットは、カップに届かず、力なく右へ切れました。
「体は日に日に硬くなり、足も重くなってました。アイアンの距離感がつかみにくかった。前半でバーディーが2つしかとれなかったのが痛かった。アンさんが、最後ものすごく切れる難しいスライスラインを入れたのは、本当にお見事でした」と、疲労に耐えて奮闘した福嶋の精一杯のコメントです。
野球選手の父親譲りの立派な体。日本の女子では珍しい300ヤードドライブを連発できる大型選手ですが、心やさしい穏やかな性格が、ここというときの勝負を勝ち抜けない“弱さ”も秘めています。最終日も、後半は暑い日差しにアンを自分の日傘の中に入れて歩く心遣いをみせていました。
結婚願望も強かった晃子が、38歳にしてようやくめぐり合った伴侶。「結婚は楽しい。最高です」と、この1ヵ月余り、喜びを発散させていたのですが、ゴルフの方は思うように“新婚V”がきません。6月後半のニチレイレディスで予選落ちしてから、結婚発表後、夫も同行したフランス・エビアンマスターズ(米ツアー)、帰国後のmeiji カップと3連続予選落ち。今回ようやく優勝目前までいくチャンスをつかみながらの惜敗でした。
勝ったアン・ソンジュは、日本ツアー参戦2年目にして通算7勝目(今季9戦3勝)。早くも生涯獲得賞金2億円を突破しました。36試合目での突破は宮里藍の44試合を大きく更新する最速記録です。今季の賞金ランクでも2位佐伯三貴に1400万円以上の差をつける6702万4000円。2年連続の賞金女王へ独走態勢です。「韓国人でも自分は日本ツアーの代表のつもりです。今年も残りは日本でプレーします。みなさんの恥にならないようないいプレーをしたい」と、一度は米ツアーのQTにも挑戦したことのあるアンも、いまではすっかり日本びいきです。270ヤードは出る飛距離を武器に、安定したショットと度胸満点のパットは日本勢には常に怖い存在です。
「こういうゴルフができるようになれば、またチャンスは来るでしょう」と、福嶋は気をとりなおして昨年優勝したCAT(大箱根CC)に今週臨みます。宿敵アンにリベンジの鉄槌を振り下ろすくらいの意気込みで、今年も「箱根」を制覇してもらいたいのですが・・。