石川遼、池田勇太らの若々しいレギュラーツアー、横峯さくららの華やかな女子ツアーと、派手な報道がはんらんする中で、粛々と展開されているシニアツアーも見逃しにはできません。いまではシニアエージになっている人たちですが、レギュラーツアーを築き上げたのはこの選手たちなのです。かってのスタープレーヤーたちが卓越した技術と経験をぶつけ合って競い合うシニアツアーの面白さはまた格別です。先週の「コマツオープン 2011」(石川・小松市)も、“比国の英雄”といわれたフランキー・ミノザ(51)と、60歳の還暦を迎えた三好隆が演じたプレーオフは見ごたえがありました。2ホール目のバーディーでF・ミノザがシニア2年目でうれしい初優勝を勝ち取りましたが、米シニアツアーのライセンスを取りながら、日本シニアにこだわるミノザの執念を見るようでした。
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最終日は、ミノザ、三好、東聡の3人が8アンダーで並んで最終組でした。激しい首位争いを演じて進み、東が17番をボギーにして脱落。大詰はミノザと三好の一騎打ちでした。ともに11アンダーできた18番(パー5)。「17番からの坂を急いで上がり、息がきれたまま打った」というミノザの第1打が、左に曲がってOB。最終ホールでOBはまさに致命傷。三好は「勝った!」と思ったでしょう。傷心?のミノザは、打ち直しで2オン。ロングパットを2パットに収めボギーで上がったのは、さすがといえばさすがでした。
2年間勝利のない三好が、どんなウィンニングパットを入れるか?と18番グリーンを囲んだ大勢のギャラリーが見守る中、奥のピンを狙った三好の3打目(67ヤード)は、グリーン奥まで弾んでエッジのラフに沈みます。ピンへは約5メートル。下り目の傾斜で難しかったですが、三好のSWでのチップショットはなんと“ザックリ”。2メートルほど飛んだだけでグリーンに乗りません。カラーから残った3メートルのパーパットは、思うように手が動かず、ボギーです。グリーンまで60ヤード余りから4打かかって天を仰ぐ三好。“まさか”といった顔のミノザ。ともに最終ホールボギーとして10アンダーでのプレーオフです。
ミノザの“綱渡り”が続きます。18番を使ったプレーオフは、右の土手のラフに第1打を入れたミノザ。ユーティリティの17度で約250ヤードをグリーン右のエッジへ。15メートルのチップショットが3・5メートルオーバーです。同じく2オンさせて2パットのバーディーにした三好は「(ミノザが)カップを3、4メートルオーバーしたのでいけるかと思った」と見守りましたが、ミノザはこの3・5メートルをねじ込んで、1ホール目はともにバーディーの分かれです。
2ホール目。右の傾斜のラフからまたも250ヤードを乗せてきたミノザ。3オンの三好はカップ手前6メートル。ミノザが着実に2パットでバーディーを決めると、三好は6メートルが入りません(パー)。しぶとく粘ったミノザに勝利の女神は微笑みました。
「クレイジーゲーム!」勝ったミノザが第1声でつぶやきました。「(本戦)18番のOBでゲームは終わりだと思ったよ。三好さんはグリーンまで60ヤードのところにセカンドをもってきていたしね」。 ところが三好のミスで転がり込んできたプレーオフ。今度は、プレーオフで2回ともドライバーを右の傾斜のあるラフに入れながら、約250ヤードを2度とも″2オン〝(1ホール目は右エッジ)させた長打力と冷静さは見上げたものです。「(土手の)ラフだったけど2度ともボールのライが悪くなかったから、難しくなかった」とさらリといってのけたあたりはミノザの「実力」といえるでしょう。
レギュラー時代は、飛ばし屋で日本ツアー7勝。アジアンツアー9勝。全盛時代、母国では“フィリッピンの英雄”ともてはやされ、大統領のゴルフパートナーに指名されるなどのヒーローでした。シニアデビューした昨年は、5試合に出場、日本プロシニアでは加瀬秀樹と優勝を争い2位。最終戦のHanda Cupシニアマスターズでも倉本昌弘に敗れはしたものの2日目、3日目とトップをキープするなど大いに気を吐きました。昨年末には米シニア(チャンピオンズツアー)のQT(予選会)にも挑戦。2位で通過する実力をみせました。
ライセンスを得た米チャンピオンズツアーに今季8試合出場しましたが、成績が上がらず、しかも右ひざを痛めて帰国。8月のファンケル(5位)から日本シニアに登場。前週の皇潤16位。今季3試合目で勝つべくして勝ったという感じです。賞金ランキングでも2位に浮上(1位は金鍾徳)。これで今年の賞金王へ有力な位置に座りました。
せっかく取得した米シニアの出場権はどうするのでしょう。ミノザに聞きますと“いま考慮中”としながらも「日本のシニアのレベルも高いが、アメリカはもっと高い。アメリカでやるのは一つの目標だが、このままでは来年のシードはキープできない。それに(比国から)アメリカは13時間もかかるけど、日本へは3時間半で来られる。食べものも日本はおいしいからね」と、心はすでに日本シニアに傾いているようです。食べ物もおいしい日本ですが、シニアの方も″おいしい〝日本なのです。少なくとも今年の残り試合は日本でエントリーします。
今年の国内シニアツアーは4戦を終わってすべて初優勝者。新旧の入れ替わりが色濃くなってきた国内シニアですが、ミノザはそこに君臨しそうな“強さ”をみせつけています。