石川遼(27)が2試合連続で圧倒的な勝利を遂げました。まさに眠れる獅子がようやく目を覚ました感があります。7週間ぶりに再開した男子ツアー「長嶋茂雄招待セガサミー杯(北海道・ザ・ノースカントリーGC)」。初日から67を出し4日間とも60台の通算20アンダー。2位パグンサン(比国)に4打差をつけて3度目の完全Vでした。15歳のアマチュアで挙げたプロ1勝目(07年)から12年目。山あり谷ありの苦難の道を歩んできた遼が、27歳にしてようやく本来の強さを取り戻してきたといっていいでしょう。7月第1週の日本プロ選手権で3年ぶりの劇的優勝をつかんだのに続く2試合連続V。通算16勝目。賞金ランクもトップへ。今回は大会初日に義母をがんで亡くしながら強行出場した弔いの1勝でもありました。
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初日から遼は珍しく上下と帽子も黒の新ウエアで登場、驚かせました。契約するキャロウェイがこの秋新たに展開する米カリフォルニアの新衣裳だったのですが、優勝後、明かした天国に召された義母を弔う″黒〝でもあったのでしょうか。初日朝の訃報に接し、遼は試合出場するかどうか。悩みに悩みました。今週も出発前に見舞って″頑張って〝といわれて別れたばかり。迷う遼に出場を進言したのは、実母をなくしたばかりの妻でした。約1ヵ月半前、日本プロのときも義母は闘病中で″頑張って〝と背中を押されて出場。3年ぶりの優勝を勝ち取った遼です。今回は初日はまだ精神的に動揺していたという。「こんな状態で、本当にゴルフができるのか」-しかしスタートホールに立つと驚くほど冷静になれました。最終18番。大観衆に迎えられながらグリーンに登るとき、秘かに涙がにじんできました。「きっと見てくれているな。自分の力だけじゃない。引き上げてくれたんだと思う」。静かに握りしめた右コブシ・・。
天国の義母に届けとばかり4日間を戦った遼のパワーは凄いものがありました。初日からトップを走り続け、3日目には11番(パー4)と13番(パー5)で2度も池に落としながら、打ち直しのアイアンショットをいずれもピン1㍍以内につけてパーをセーブするスーパーリカバリー。そして3打差をつけてスタートした最終日。出だしの1番でまたグリーン右に外しながら約10㍍をチップイン(バーディー)。さらに5番でもグリーン脇から2つ目のチップイン・バーディーと立て続けに巧みなアプローチもみせつけました。7番(パー3)の唯一のボギーも、そのあと2つのバーディーで取り返し、危なげない逃げ切り。4日間で24バーディー。ボギーは4個だけの″強い遼〝を通し切りました。
最近の遼は、ドライバーを曲げないこともありますが、それ以上にアイアンショットの精度アップに力を注いでいます。海外のロングヒッター達に飛距離で勝負するのではなく、グリーンに乗った時にこだわっているのです。それには正確なアイアンショット、キレるアイアンショットに磨きをかけなければなりません。「ティーショットでつけられた差を、グリーンに行くまでにどう埋めていくか。いかにピン近くに寄せられるかが大事」と遼。僚友・松山英樹が米ツアーで戦えるのも、一つに″アイアンの名手〝であるからだというわけです。優勝した7月上旬の日本プロから約1ヵ月半。遼はこの″夏休み〝のブランクで徹底的にアイアンのレベルアップを追及してきました。1日90分のトレーニングを週3回。体重も3㌔増えて73㌔。腰回りの筋肉、背中の筋量も増して力強いショットを打てるようになりました。
「1年前まではヒデキと一緒に回るのが恥ずかしいなという思いがあったけど、いまは1年前にはなかった感情も沸いてきた」とか。「ドライバーでヒデキとどれくらい違うのかとか、アイアンの精度はどうなんだろうとか、正面からぶつかってみたい気持ちです」と話せるまでの遼に戻ってきました。今季は開幕後の腰痛で1ヵ月の戦列離脱という苦しい時期もあったのですが・・。
セガサミーで見せたアイアンのキレは、その言葉を裏付けるものでした。セガサミーの17番パー4。設定された距離は392ヤードですが、日によってティーの位置が変えられれ、最終日は「ワンオン→イーグルを狙えるように」ティーが280ヤード付近の前に移動されました。当然ワンオンを狙う選手は多くなりますが、いまの石川遼は違います。ティーショットはアイアンで刻み、2打目のアプローチでピンを攻めていく戦法でした。もちろん2位とのスコアの差もありますが、なんでもがむしゃらに攻めのゴルフに徹していた遼からは、いま一皮むけた感がします。
★1ヵ月半にも及ぶ日程のブランクで「試合カンのない」中、20アンダーを出した石川遼の優勝コメント。
「男子ツアーは1ヵ月半近く試合がありませんでした。もし2週続けての試合だったら、入り方が難しかったかもしれません。日数が空いたので、気持ちのリセットができたような気がします。最終日はうまくいってないアイアンが少し出たけど、去年、一昨年に比べて全体的にかなり底上げされた実感があります。(賞金レーストップ浮上も)賞金ランクなどはまだ先のことです。後半戦もどの試合も今回のように頑張っていきたいと思っています」
約1ヵ月半の男子ツアー不在の間、女子ツアーでシブコの快挙に沸いたゴルフ界。選手会長が自らの快勝で男子ツアーの面目を保ちました。″夏休み〝を過ごした男子ツアーもこれからは秋の陣へ毎週試合が続きます。石川は賞金ランキングでは11年9月以来8年ぶりに「1位」に返り咲き。10年ぶり2度目の賞金王への夢が膨らみました。世界ランクは前週の178位から122位(日本勢4番手)にせり上がり、東京五輪の「2枠」へ前進です。10月の日米共催、日本初開催の「ZOZO選手権」への出場権も見えてきました。戻ってきた「強い遼」へ、数々の期待は膨らみます。
(了)