松山英樹を意識しない?!マイペース、20歳・川村昌弘2年目の初V

プロ2年目、20歳で初V。パナソニックOPを制した川村昌弘(大阪・茨木CC)
プロ2年目、20歳で初V。パナソニックOPを制した川村昌弘(大阪・茨木CC)

 松山英樹でもない、石川遼でもない・・男子ゴルフ界にまた一人、若々しい20歳のヒーローが出現しました。川村昌弘(福井工大付属福井高12年卒)。ジュニアのときから黒が好きという上下黒一色のウエアで“黒豹”のように男子ツアー界を突っ走りました。井上誠一氏設計の名門、大阪・茨木CC西コースでのパナソニックオープン。最終日、首位に2打差の2位から出た川村は、17、18番を連続バーディーとする驚くべき勝負強さで今季賞金ランク2位のS・J・パク(韓国)を逆転。高卒2年目のツアー2年目で初優勝。20歳3ヵ月4日での初Vは、ツアー史上5番目の年少記録。待望の個性派プロの誕生ですが、QT19位で出場したプロ1年目の昨年から、いきなりシード選手(賞金ランク32位)になる安定したゴルフで、“1勝目は時間の問題”と言われていた逸材です。松山英樹が米ツアーに去る男子ツアーに、一味違った新鋭の台頭です。

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 記者団から第一声で「泣かないの?」と問いかけられた川村は「そういう感じじゃないので・・。プレーオフと思ってました。正直びっくりです」と、淡々と答えました。この冷静さ、落ち着きが、20歳とは思えぬ川村の強さです。コースに出ても、飄々(ひょうひょう)としたプレーぶりが、どんどん好スコアを引き出します。最終日、前半2バーディーのあと3つのボギーを叩いて追撃にブレーキがかかった後半。10番を取り、13番のパー5はレイアップして102ヤードを50センチ。15番のパー4は第1打は3W。第2打を8Iで2.5メートルにつけ相次ぐバーディーで盛り返す粘り。16番のパー4ではロングパットを2メートル残したピンチに、このパーパットを決める度胸。3連続ボギーの危機だった前半6番。難しい下りのスライスラインのパーパットを外さなかったのに続く美技。この踏ん張りが、大詰での連続バーディーを呼び込みます。17番、230ヤードのパー3は20度のUT。3メートルのスライスラインを入れてバーディー。18番は残り250弱の第2打をここでも20度のUTで8メートルに2オン。難なくバーディーに収めて9アンダー。連続バーディーの上がりは強烈でした。

 一組後ろから来たS・J・パクが、18番、入れればプレーオフとなる1.3メートルのバーディーパットを外し、日本人では石川、松山に次ぐ若さで川村の逆転Vが決まりました。

☆川村昌弘の勝利コメント

高い弾道で安定したドライバーを280ヤードは飛ばす川村昌弘。
高い弾道で安定したドライバーを280ヤードは飛ばす川村昌弘。

「18番のドライバーは結構緊張しましたが、小岸さん(キャディー)と、風向きとか、球筋とかは関係なく、最後まで気持ちよく振ろうと話しました。2打目はかかとが下がっていてフックしやすいので、小さくてもいいから右から回す、ジュニア時代から自信のあるショットで攻めました(下8メートルに2オン)。前半で連続ボギーがありましたけど、3連続ボギーになりかけた6番の凄い下りスライス(パーパット)を入れたのが大きかったです。勝負の後半は、入れ込み過ぎないように気をつけました。先に上がりプレーオフだと思って練習グリーンで素振りしてました。球を打たなかったのは、取り返しのつかない1球を打ってしまうかもしれないので・・。遊びの球、気持ちの入らない球は打ちたくないいんです。(高卒2年目でのツアー優勝は)早いのか、遅いのか分からないです。高3でQT受けて通り、1年目で初シード、2年目で初優勝。プロか大学か、悩んでいたときから考えると信じられません。大学に4年間行くつもりでQT受けたのですが、大学に行くつもりはありませんでした。ナショナルチーム時代に色々経験をして、自分の実力ではまだ(プロは)早いかな、とも悩みましたが、どうせなら早くから厳しいところでと思って、失敗してもとプロへの道を選びました」

 父親と練習場に行ったことがきっかけで、幼少のころからゴルフが好きになり、ほぼ独学で腕を上げました。09年(高1)日本アマ3位、09、10年(高2)中部アマ優勝、10年(高2)全日本パブリックアマ選手権優勝、11年(高3)日本ジュニア優勝・・とアマチュア時代から着実な進歩を遂げ、高3の時にQT受験して即プロ転向宣言。12年春、高卒と同時にプロツアー参加と、これまでムダのないゴルフ人生を歩んできました。

アイアンの切れ味には自信があるという川村昌弘。若さに似合わないショットメーカーだ。
アイアンの切れ味には自信があるという川村昌弘。若さに似合わないショットメーカーだ。

 プロ1年目の昨年は、2戦目のつるやオープンで3位。いきなり存在感をアピール。日本ゴルフツアーでは1打差の2位で初体験の最終日最終組。さすがにスコアを落として5位でフィニッシュ。コカ・コーラクラシックでは初めての首位も体験(11位)。1年目でトップ10に4度入り、賞金ランク32位のシード選手となるなど、今年は初優勝を待つのみというところでした。今季は5月に左手親指付け根痛を発症(丸山茂樹が痛めたのと同じ)、4試合予選落ちが続くピンチがありましたが、ハリ師や接骨医を訪ね歩き、ミツバチに刺され毒気で治すなど、さまざまな治療を続けて8月下旬に快方に転じました。

 飛距離は「280ヤードは出る」(小岸秀行キャディー=40)高い弾道の飛ばし屋で、自在に多彩な球を操るショットメーカー。石川遼のような華麗な飛ばし、松山英樹のようなダイナミックさとは一味違った、安定したゴルフの持ち主。「スイングは深く考えたことがない。理想に近い球筋で自在に球を操ればいい。ジュニア時代から1つ番手を落として、右から回すのが自分の決め球。ショットメーカーだと思っているし、アイアンの切れ味に自信があります」と、川村自身が語っています。

喜怒哀楽をあらわにしない川村昌弘は、20歳とは思えない冷静なゴルフをする。
喜怒哀楽をあらわにしない川村昌弘は、20歳とは思えない冷静なゴルフをする。

 三重・四日市在住の父親の昌之さん(47)は「道路のライン引きをやる会社。従業員は4人」(昌弘プロ)。傍ら、昌弘プロのマネージメントをする「㈱CyaO(チャオ)」を設立、父親が社長、母親・那緒美さん(47)が専務兼マネジャーを務めるなど、一人息子の成長にかけています。ゴルフ用品はプロになってからはタイトリストの“日本人の顔”。今年からネットリサーチ会社の「マクロミル」(東京・品川)の所属となり、なにかとサポートを受けています。今回、優勝賞金3000万円のビッグマネーを手にし、賞金ランクも7位(3965万9150円)に浮上。15年までのアジアンツアーのシード権を得たのが喜びで「アジアにはいろいろと挑戦したかった。いろんな国でゴルフをするのが目標ですが、全英オープンで優勝することが最終目標。全英、全米、歴史のある試合が好き」と。一つ上の松山英樹や石川遼についても「あまり意識しません。自分も頑張ろうと思うだけ。別に悔しいとかはありません」(川村)。

 片山晋呉には「おめでとう。このあと大変だけど頑張って!」といわれたそうですが、ビッグゲームにも動じないこのマイペースが、これからの川村をどこまで大きくするか、見ものです。優勝キャディーとなった小岸秀行キャディーは、このあと日本オープンでまた川村のバッグを担ぎます。