宮里藍、石川遼らの出現に刺激されて以来、いまゴルフ界は激しい若返りの波が押し寄せています。6月には全日本パブリックゴルフ選手権が相次いで行われ、女子は19歳の酒井美紀(東日本国際大付属昌平高出)、男子は16歳の川村昌弘(福井工大付属高2年)が、ともにプロ顔負けのアンダーパーゴルフで″パブリックアマ日本一〝に輝きました。大会出場選手の過半数を10代選手が占め、ますます盛んになるジュニアゴルフを象徴するパブリック王者と女王の誕生でした。この大会(男子)は今年第44回の歴史を持ち、中嶋常幸、田中泰二郎、丸山茂樹、久保谷健一、星野英正、永野竜太郎ら。女子(10回)では宅島美香、綾田紘子、森田理香子らプロで活躍する人たちも歴代優勝者に名を連ねています。
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男子の全日本大会は6月9、10日の2日間、名古屋市近郊の愛知県尾張旭市の森林公園ゴルフ場(6,832ヤード、パー72)で行われました。全国各地区の予選を勝ち抜いた182人がエントリー。上は63歳から下は13歳まで。中でも最年少の13歳組は10人を数えるほどで、ヤング勢力の広がりを証明しました。舞台となった森林公園ゴルフ場は、昭和30年開場(9ホール)で85年の歴史を持った老舗コースです。現在は36ホールを有し、グリーンも以前の高麗芝から高速ベントグリーに改修され、広いフェアウェイと行き届いたメンテナンスで愛知県でも有数の人気コースになっています。
好天に恵まれた初日からアンダーパーが続出でした。いまの若手のレベルの高さです。小6からパブリックアマに出場していた”パブリック育ち”の川村昌弘(16)が、初日から10バーディーを奪ってホールアウトしました。「1番(インスタート)で5メートルから3パットしたボギー一つが残念でもったいない」(川村)と話し、結局アウト32、イン31の9アンダー、63です。先の中日クラウンズで石川遼が驚異の「58」を出して話題をさらいましたが、それに肉薄するようなゴルフをするのがいまの10代です。ドライバーは280~300ヤードを飛ばし、パー5のホールは2オンもしくはグリーンエッジまで運んで確実にバーディーをとっていくゴルフです。
あっさりと自己ベストスコア「63」でコースレコードも更新した川村クン。まだ16歳ですよ。コースからはコースレコードへのご褒美の品をプレゼントされ、新たにハウス内にコースレコードのボードも作製して、その第一号に「川村昌弘」の名が刻まれることになりました。初日ホールインワンを出した前田男(21)が1打差の64で迫っていましたが、飛んで曲がらない川村選手のゴルフは抜群の安定度でした。2日目も落ち着き払ったプレーで8個のバーディー。大詰の16番で50センチを外して3つ目のボギーをたたきましたが、その直後17、18番はまた連続バーディーで67。14アンダーでフィニッシュする強さでした。
2位には大会2連覇を狙っていた伊藤誠道(14)=藤沢湘洋中3年=も67で追い上げましたが、通算8アンダーで6打差をつけられました。
川村は前週行われた中部アマでは2連覇を遂げてこの大会に乗り込みました。左右にOBのあるホールもいくつかありましたが、「僕はずっとドライバーでいきました。刻んでいるとうまくならないと思って、怖がらずに攻めています。この一年でショートアプローチが上達したのでグリーンを外してもパーはとれるようになって変な緊張感がなくなった。最終日に崩れる悪い癖も、今日が初日のつもりでやって克服できました」と、小6から数えて6回目の出場になったパブリック選手権でついに全日本の頂点に立つ”王者”となり、「うれしいです」と、童顔をほころばせました。
現在もJGAのナショナルチームの一員ですが「高校のあと大学にいくかかプロの道を選ぶか、まだ決めていません」といっています。そういえば、石川遼も強かった大学進学志望が、プロツアーでアマとしの実績がすばらしく、進学希望を断念せざるを得なくなった先例もあります。抜群のゴルフ感覚を身につけている川村クンの将来はどんな道になるのか。パブリック優勝に続いてこれからどんなタイトルを取り続けるかによって、身の処し方が決まるでしょう。
女子で全日本パブリック女王に就いたのは”東北にこの人あり”といわれた酒井美紀(19)でした。パブリックでは、東日本決勝で3連覇(06~08年)するなど、飛びぬけた実力をみせながら、全日本では勝運に恵まれませんでした。今春、東日本国際大学付属昌平高を卒業、夏のプロテスト受験を前にしていますが、全日本パブリックは6月2、3日千葉・八千代ゴルフクラブ(パー72)で地区決勝を通過した164人が参加して行われました。
酒井は初日、4バーディー、ノーボギーの68、2位に3打差をつけて1位発進。2日目(最終日)も4つのバーディーを奪い(2ボギー)2アンダー、70とスコアを伸ばし、2日間ともアンダーを出す安定ゴルフでした。2位には青木瀬令奈(17)=前橋商高3年=が追ってきましたが、6打差をつけて通算6アンダー、138での完全優勝です。
美紀は恵まれた体を生かしての飛ばし屋です。福島・いわき市内でゴルフ練習場を経営している父・正孝さん(56)に小2のときからゴルフの手ほどきを受けました。07年3月の春季全国中学校選手権(瀬田)で優勝したのをはじめアマチュアとしての戦績はトップクラスです。07年高1の日本女子アマでは、決勝戦で今年プロルーキーとして健闘している綾田紘子に1アップで敗れ、悔し涙を流したことあります。
「今年はショットが安定してます。オフにはアプローチを随分練習したので、グリーンを外してもチップインできそうな感じで打ってます。アプローチがよくなったから、安心してドライバーも打ててます」と、自信ありげです。今年は4月下旬の女子プロツアー、フジサンケイレディスに出場して20位に入りました。今週のニチレイレディス(18~20日、袖ヶ浦新袖コース)にも推薦で出場の予定ですが、それよりも6月22日(火)から始まる日本女子アマ選手権(北海道・ツキサップGC)で、アマチュア最後の栄冠を狙って勝負をかける美紀の結果が気になります。
早くから、プロになるのは既定の事実のようにいわれてきた”大物”酒井美紀のブレークが近づいたようです。