永久シード保持の片山晋呉(51)がシニア参戦11試合目でやっとシニア初優勝を手にしました。レギュラーツアー31勝、5度の賞金王もとっている男が、ここまで“シニア1勝”にてこずるとは意外でしたが、シニアにはシニアの難しさがひそんでいるのでしょう。舞台は栃木・イーストウッドCC(パー72)での「すまい~だカップシニア」。単独トップで迎えた最終日。タイの刺客タワン・ウィラチャンの厳しい追い上げを受けながら、3日間で唯一のボギーを13番(パー4)でたたいただけで、自らも「69」と3つ伸ばして通算15アンダー。「1打差でも勝てばいい」という“晋呉哲学”を実践するかのように2位を1打差に抑えての逃げ切りV。優勝賞金1000万円を手にしました。シニア世代になった片山の夢は、海外シニアで勝つこと。大きな望みを追って、晋呉のシニア時代がジワリと動き始めました。
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初日、首位から3打以内に14人がひしめく混戦状態で幕をあけた大会。2日目は雨でスタート時間を1時間待機させられたた悪天候にもかかわらず、片山は「64」のベストスコアを出して9位タイから一気に単独トップに浮上しました。12アンダー首位で出た最終日。前半でさらにスコアを伸ばし、10番も取って後続との差を4打に広げたときは晋呉の楽勝を思わせました。しかし、勝負ごとは簡単ではありません。初日からバーディーフリーを続けていた片山が、13番パー4で第1打を左林に打ち込み、2打目を木に当てるなどして3オン2パットの初ボギーをたたきます。15番のパー5でも2㍍ほどのバーディーチャンスを決めきれず「急に体がだるくなってきてスポーツドリンクでも飲みたかった」(片山)という異変。
先に上がったウィラチャンへのリードは1打差となって緊張高まる最終18番(パー5)。フェアウェイウッドでのティーショットは距離を稼げず、3打目勝負。左の池近くに切られたピン奥3㍍につきましたが「ピンは全然狙っていなかった。もっと右のテレビ塔を狙っていた」という。緊迫した場面を安全第一でどうにか3オン2パットのパーで凌いだ終幕でした。
昨年6月の「スターツシニア」で6打差4位のシニアデビューをした晋呉。50歳(当時)といってもまだまだ実力を持っていてシニアで勝つのは時間の問題と思われましたが、それからちょうど1年。10試合を戦い“シニア1勝”は遠のくまま。10月の「福岡シニア」で“同級生”の宮本勝昌とのプレーオフで敗れたこともありましたが・・。来週6月14日からの「スターツシニア」でデビュー1年を迎えるにあたって「僕にとって1年を通り越してしまうのがすごくいやだった。絶対今週決めようと思っていたんです」という。シニアツアーは「やってみるとレベルが高くて普通にやっていたのでは勝てないのが分かったんです。いろいろと準備も必要だし、ツアーに慣れないといけない。僕は意外とその時間が必要で、日にちがかかった。やっと勝てたなという感じでした」と述懐しています。
レギュラーとシニアの違いは? まず距離にも差がるし、4日間大会と違ってシニアは3日間競技が多い。初日、2日目は様子をみながらという余裕はありません。1日目から全力発進が必要なのです。グリーンの速さも異なります。トーナメントの設定はレギュラーとは大違いで、それらすべてに慣れることが必要なのでしょう。
「デビュー1年以内に勝てば、自分の中では合格だった」という片山。今回の勝利はようやくシニアの風に馴染んできた証拠といえるようです。その片山がシニアになって思い描いているのは「海外シニア(メジャー)での優勝」なのです。国内シニアツアーの年間賞金ランキング4位以内に入れば「全米プロシニア」「全米シニアオープン」の出場権がもらえます。今年の片山は国内シニア2試合を終えて2位、優勝の好スタートで賞金ランキングは早くもトップに立っています。この好調をシーズン末までキープできれば、来季の米シニアメジャーへの挑戦が実現します。
片山はかねがね「米シニアはテレビを見ていてもレギュラーと違って20人くらいの限られた上位者が勝つ傾向が強い」といっています。その上位グループに入れば、勝つチャンスは生まれるだろうということです。50歳になってからの米シニアで勝つ夢を追って、片山は5年ほど前からスイング改造にも取り組んできました。ここへきてそれが実を結び始め、球は飛ぶようになったし、パッティングも思ったところへ打てるようになっているとか。若いころからスイングや用具にも独特の“個性”を創り出してきた片山です。国内ツアー31勝の永久シードプレーヤー。賞金王5回。マスターズで4位に入った経験もあるレジェンド・晋呉の描く大きな夢。シニア優勝に1年かかりましたが、この個性派プロがやり残している課題は尽きません。鳴りを潜めていた晋呉ゴルフ・シニア版の御開帳は、いよいよこれからです。
(了)