5人全滅とは、チトひど過ぎやしませんか!? 今季4つめ、最後のメジャー、全米プロゴルフ選手権(8月16日最終日=米ウィスコンシン州ウィスリングストレーツ・コース)、日本が満を持して送り込んだ選りすぐりの5人が、枕を並べて予選落ちの憂き目にあった敗北です。我らが誇る石川遼(18)を先頭に若武者・池田勇太(24)、円熟中年組の平塚哲二(38)、小田孔明(32)、藤田寛之(41)のサムライ5人。ひょっとしたら優勝争いでベストテン入りも、と期待は高かったのに、フタをあけると難コース、難グリーン、難天候に立ち向かえず、全員がしっぽを巻いて2日間で”お帰り”でした。あまりのふがいなさに、「来年の(全米プロの)日本人出場枠が減らされるのではないか」(日本ゴルフツアー機構山中博史専務理事)と懸念される事態まで引き起こしてしまったようで・・。
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難コースであることは早くから分かっていました。ミシガン湖畔に寄りそうようにレイアウトされた18ホールは、なんとバンカーの数が1000個を上回るという途方もない数字があるのです。パー3ホールなどはフェアウェイはありません。ティーグラウンドからグリーンまで、大小のバンカーが無数に散らばっていて目を奪います。しかも17番のパー3は、左サイドはすべてミシガン湖が迫っていて、距離は223ヤードという長さ。もう目をつぶって打つしかないようなレイアウトです。
コース内には木は一本もなく、各ホールはうねっていて完全なリンクスの顔をしています。500ヤードを超えるパー4が3つも。さらに618ヤードの11番。598ヤード(5番)、593ヤード(2番)、569ヤード(16番)と、パー5はすべてといっていいほど”600ヤード”になんなんとしているのです。コースのアップダウンも激しく、18ホールのトータル距離は7507ヤードのモンスターコースです。
箱庭のようなコースの多い日本の環境で育ち、生きている日本人ゴルファーには、およそ不似合いな荒くれコースです。グリーンは大きくて横長、縦長の形状が多く、乗っても一筋縄ではいきません。メジャーらしくラフも伸ばしているとあっては、その形態だけを考えても日本人には手ごわいのに、連日ミシガン湖からの強い風が吹きすさぶとあっては、ホントにどうにもならない舞台(設計:ピート・ダイ)でした。
「風の鳴る海峡」というのがウィスリング・ストレーツの和訳だそうですが、一見リンクスのように見えますが、ぜんぜん違うのです。スコットランドのリンクスコースは下が硬いこともあって、風の下をくぐらせるように低い球を打ち、場合によってはグリーン手前50ヤード以上からでも転がし上げるといった戦法がとられます。ウィスリング・ストレーツは、グリー手前の芝生が異質だったり、でこぼこがあったり谷だったりで、全英オープンのようにランニングで転がすことは不可能。とにかくボールを上げて上から落とす戦法でないとピンに寄ってくれません。500ヤード、パー4の18番などは、最初から”よくてボギー”を覚悟させられるような地獄のフィニッシュです。1打足りずに予選を落ちた日本勢最上位の池田勇太も、この18番でセカンドがグリーンに乗らず、ボギーにして予選敗退に直結しました。石川遼も最後ののぞみを託したこの18番をダブルボギーにして、とどめを刺されました。
日本勢は歯が立ちませんでした。もう、だれがどうというのではなく、石川遼は初日からメジャー初日自己ワーストの76をたたいて最悪のスタートを切り、翌日も2つ縮めただけの74。勝負のかかった最終18番でダブルボギーの失速では、通るものも通りません。たまにチャンスがきてもパターも入らない悪循環で石川は6オーバー、119位。大会史上最年少の17歳で予選を突破した昨年の全米プロ(コースは違う)のようなはつらつとした姿はついに一度も見られませんでした。
「去年よりは成長しているつもりだが、それをコースで出せないのがもどかしい」ー石川は平常心で戦えなかった悔しさをかみしめましたが、やはりそれが経験と実力の不足というものでしょう。濃霧で初日はスタート時間を3時間10分も遅らされ、2日目も再び霧で2時間40分も平気で待ちぼうけを食わされたり、すべてに日本と違うリズムの2日間でした。僅かに池田勇太が、持ち前の強度胸で初日は1アンダーの71で回り22位タイにつけたのが唯一、最高、せめてもの見せ場でした。粘りぬいたその池田も2日目、17、18番の大詰で連続ボギーでは決勝への壁は破れません。”1打不足”の2オーバー、73位というのが、悲しい慰めでした。藤田寛之は5オーバー、109位。世界ランキング81位の資格で最後5人目で出場権を得た平塚哲二は7オーバー、126位。小田孔明は8オーバー、131位。
「セカンドの精度がダンチに違う。実力の差を思いしらされた。まあまあ対等にやれたのはドライバーだけ。当分、米ツアーはいいかな・・」とは、完全にシャッポを脱いだ小田孔明の敗戦コメントでした。
日本勢5人が2日間プレーした計10ラウンドで、アンダーパーは池田が初日に出した「71」のただ1回のみ。全員玉砕のふがいなさでした。それに対してタフなのがアジアの若者たちです。昨年の覇者Y・E・ヤンはただ一人予選落ちしましたが、石川と同い年の”韓国の遼”といわれるノ・スン・ヨル(廬承烈)は伸び伸びと予選通過。キム・キョンテ(金庚泰)、チェ・キョンジュ(崔京周)と、韓国勢は5人中3人が決勝に進み健闘しました。日本ツアーのシード選手であるW・リャン(中国)は、優勝したマーチン・カイマー(独)に3打差の8アンダー、8位でフィニッシュしました。チェ・キョンジュ以外は現在日本ツアーでもプレーしているアジアの選手たちで、”遼の好敵手”といわれた21歳のロリー・マキロイ(英国)は、格段の差をみせつけて1打差でプレーオフを逃がし惜しくも3位。”遼世代”が世界のメジャーで堂々と渡り合っているのをみると、日本勢が遠くに置いていかれている感を強くします。
5人がそろって予選落ちはないよ、と思いますが、この結果は”世界”から厳しく見られています。日本選手がメジャーで一人も決勝へ進めなかったのは、7人が出場した08年の全英オープン以来。全米プロでは91年、中嶋常幸、川岸良兼の2人が予選落ちして以来、9年ぶりのことです。全米プロは明確な出場資格の規定はありませんが、これまでは世界ランキング100位以内に入っていれば、日本選手数人へ優先的に招待状が送られていました。その優先的評価が薄れる可能性が出てきたのです。それはひいては世界ランキングにも大きな影響を与えますから、日本選手の世界への道が狭められることにもなりかねません。
結局日本勢の今年のメジャーは、石川遼の全英オープン27位が最高で、4大メジャーで25位以内に入った日本選手はいなかったことになります。実力不足なのか、練習量が足りないのか、日本のコースがやさし過ぎるのか、それとも世界に出て行く経験が浅いのか。いずれにしても日本勢の遅れが気になります。これからは各選手、日本国内に重きを置いた後半戦の戦いになりますが、メジャーで味わった悔しさを忘れないでほしいものです。
★今季 石川遼、池田勇太のメジャー★
石川遼 池田勇太
マスターズ 予落 29位
全米オープン 33位 58位
全英オープン 27位 予落
全米プロ 予落 予落