“飛ばない選手”のレッテルを覆した36歳・茂木宏美のメジャー初V

36歳でワールドレディスのメジャーを制した茂木宏美。優勝カップとサロンパス杯を両手でかざす喜びの一瞬(茨城GC西コース)
36歳でワールドレディスのメジャーを制した茂木宏美。優勝カップとサロンパス杯を両手でかざす喜びの一瞬(茨城GC西コース)

 36歳と17日。若くてピチピチした女子プロがもてはやされる中、ベテラン茂木宏美の円熟したゴルフが、国内今季初のメジャータイトルをつかみました。ワールドレディスサロンパス杯(茨城・茨城GC西コース)。最終日1万人超のギャラリーの前で2打差の2位から出た茂木は、ドライバーのほか5本のウッドを駆使、“飛距離不足”を補って通算9アンダー。味のある逆転優勝でした。プロ12年目。11年のヨネックス以来のツアー6勝目ですが、夫・窪田大輔さんと二人三脚で戦い始めてミセス2度目のVでメジャー初制覇を果たしました。この大会、外国勢4年連続優勝も阻止しました。

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飛距離では劣る茂木宏美だが、絶妙のコントロールショットとコースマネジメントで“飛ばし屋”の佐伯三貴、森田理香子を圧倒した(茨城・茨城GC西コース)
飛距離では劣る茂木宏美だが、絶妙のコントロールショットとコースマネジメントで“飛ばし屋”の佐伯三貴、森田理香子を圧倒した(茨城・茨城GC西コース)

 賞金ランク1、2位の佐伯三貴、森田理香子と同組で迎えた茂木の最終日。相手はともに女子プロでも飛ばし屋の2人。飛距離ではとうていかなわない茂木は「自分のゴルフ」に徹することを心に誓っていました。5番(パー5)。2オンを狙ってきた2人に見向きもせず、「私は50度のウェッジが得意。距離は70ヤード」」(宏美)と、その通り残り70ヤードに刻み、3メートルにつけてバーディーを奪います。8番(パー3)は、グリーンを外し、アプローチも4メートルを残した最大のピンチ。このパーパットを沈めて勝利を引き寄せました。「あれが入ったのはラッキー。今日は勝利の女神が私に向いているのかもしれない。つかまなくては!」。

 9番(パー4)。残り160ヤードを9Wで軽く振り、ピン下2メートルにつけるテクニックを見せてバーディー。ここで単独首位に立つと「ミスのないゴルフ」に徹し、12番のパー5も3打勝負で5メートルを入れるバーディー。16番では右下8メートルをねじ込むパッティングの冴えで、2人を寄せつけませんでした。最終ホールだけは、右のラフに入れて3打目も寄らず唯一のボギーにしても余裕の勝利でした。

同組の2人が語ったハットオフの弁。

同じ最終組で回った飛ばし屋の佐伯三貴も「茂木さんの影も踏めなかった」とハットオフ(茨城GC西コース)
同じ最終組で回った飛ばし屋の佐伯三貴も「茂木さんの影も踏めなかった」とハットオフ(茨城GC西コース)

 佐伯三貴「茂木さんがすばらしくて、影も踏ませてくれなかった」
森田理香子「茂木さんのプレースタイルというか、絶対ムリしないところ、バーディー狙えるところに置くショットがすばらしかった。パットもすごい入っていたので、攻めばかりじゃなく、守りだけでもなく、ああいうゴルフができたらと、勉強になりました」
 ドライバーの平均飛距離は235ヤード。2人には20ヤード以上は置いていかれる茂木の“マイゴルフ”は、どうして生まれてきたのでしょう。3年ほど前、30歳を過ぎた茂木は、モチベーションの下がった時期があったのです。「若手が台頭してくる中で、いつまでも邪魔して粘っている選手と思われているんじゃないだろうか」ー悩み続けているときに、のちに夫となった窪田大輔さん(31)と出会います。その大輔さんから「やりたいんだったら限界までやればいい。自分がサポートしてあげる」と、励まされました。
 

2打差首位で出た森田理香子も、茂木のマネージメントゴルフに完敗。3打差の3位に後退した(茨城GC西コース)
2打差首位で出た森田理香子も、茂木のマネージメントゴルフに完敗。3打差の3位に後退した(茨城GC西コース)

「これが私のプロゴルファーとしての第2幕のスタートでした」と、振り返る宏美です。その10年10月に結婚、「メジャー制覇」を大目標にして二人三脚で歩み出したのです。飛ばして、なお曲がらない選手が輩出してくる最近の女子プロ界。そうした若手に負けないためには「ミスの少ないプレーヤー。100ヤード以内は絶対といわれる精度に高めること」を追求してきました。

落ち着いてスポンサーやファンを称えるスピーチをする茂木宏美(表彰式で=茨城GC)
落ち着いてスポンサーやファンを称えるスピーチをする茂木宏美(表彰式で=茨城GC)

 大きな目標=夢を、宏美は結婚2年半、36歳にして達成したのです。ドライバーのほか3、5、7、9、11Wの5本のウッドを投入。“飛ばない選手”のレッテルを技で見事にはね返した茂木。群馬・みどり市出身。桐生女子高卒。研修生時代は静岡・朝霧CCで過ごしましたが、赤城おろしの吹く地元、赤城カントリークラブで長く所属契約を結んでいる“群馬っ子”。用具類はブリヂストンと、これも長い契約を続けるなど人望も厚い女子プロの一人です。初めてのメジャーを制した茨城GCでの表彰式でも、「スポンサーのサロンパスさんはじめ、多くのファンがあってこそ自分がいまここにいられます。すばらしいグリーンとコースを用意してくれた茨城GCにも感謝の念でいっぱいです・・」と、はきはきとした口調で優勝スピーチを述べ、小林浩美女子プロ協会会長からもお褒めの言葉をもらっていました。
 今季のシード選手の平均年齢は26・7歳。若年化する女子プロゴルフ界にあって、久々いぶし銀の実力派の登場といえるでしょう。
賞金ランキングも23位から一気に4位に上がりました。