「石川遼だけじゃなく、池田勇太だけじゃなく、この小田孔明も応援してください!」今年も男子ゴルフ優勝第1号になった小田孔明(31)が、大勢のギャラリーに向かって叫びました。桜も散った4月第3週、やっと開幕した国内男子ツアー、開幕戦の東建ホームメイト杯(三重・東建多度CC・名古屋 パー71)を制したのは、昨年もこの試合に勝った飛ばし屋、小田孔明でした。昨年11月のカシオワールドオープンでも大会2連覇を果たしている小田。今度は開幕戦2連覇という離れ技で、まさに″連覇男〝。昨年は石川遼、池田勇太に続く賞金ランキング3位で″第3の男〝といわれましたが「今年は3勝以上。賞金王になって(来年の)マスターズに行くのが目標」とぶち上げ、若い2人から主役の座を奪う意気込みをみせました。2年連続で開幕戦に勝ったのは73、74年の青木功、76、77年のベン・アルダ(比国)に続く33年ぶり、史上3人目の快挙でした。
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今年の開幕戦も昨年に続いてプレーオフでした。そして主役は2年とも小田孔明。昨年は金鍾徳との2ホールプレーオフ、今年は丸山大輔、広田悟との3人プレーオフ。最後は丸山大輔との一騎打ちとなって4ホール目、5メートルのバーディーパットを沈めて勝つと、雄たけびを上げながらしゃがみこみ、目深にかぶった帽子で涙を隠すように喜びをかみしめていました。
最終日もボギーが先行する苦しいラウンドでした。高速グリーンとタフなコース。3日目までは寒さと強風がふきまくり、4日間でアンダーパー(しかも1アンダー)はプレーオフに出た3人だけという壮絶な戦いでした。「心が折れそうになったが、折れたら負け」と自分に言い聞かせながら76ホールを戦った末の勝利には「ジーンときた!」― 。最終日、4個たたいたボギーの直後のホールは、すべてバーディー。小田の″折れたら負け〝の心意気を示す戦いの跡でした。
小田は初日は43位(74)と出遅れながら、2日目29位(70)、3日目の68で1アンダーとして単独首位にたつと、最終日もパープレーで1位を守り抜きました。300ヤードドライブの持ち主ですが、アイアンの切れ味がすばらしくパットも一流という3拍子そろった選手です。08年には平均パット1位に輝いており昨年は10位でした。バーディー率もここ3年で2位、3位、2位と高いアベレージを誇り、魅力に富んだ大型プロです。この1月には石川遼とのコンビでアジアと欧州との団体対抗戦「ロイヤル・トロフィー」(バンコク)の日本代表で奮闘しました。これを終えるとすぐにグアム、ハワイと休みなくトレーニングを積み、3月には宮崎で仕上げの合宿練習と、今年は「夏場にも勝てる」(小田)万全の準備をしての開幕でした。昨年12月、日本シリーズJT杯で右足親指の付け根を痛め、その炎症を抑えるためメーカーから特殊なスパイクを考案してもらい、これからの長丁場に備えています。
「小田孔明(おだ・こうめい)」の名前の由来は、父親憲翁さん(64)が中国の三国志の名軍師・諸葛亮孔明からとったものです。九州・福岡の出身ですが高校は東京学館浦安高。プロになりたいと意思を固めた小学5年のころから父親・憲翁さんの徹底したスパルタ教育を受けて育ちました。練習をさぼろうものならお構いなしに鉄拳が飛んできたそうです。00年にプロ入り。その父親が3年前に自宅の屋根から落ちて頭蓋骨骨折の大けがを負い、2年前にはくも膜下出血で生死をさまよった大病を重ねました。昨年11月、カシオで大会2連覇を果たしたときには、元気になった父親と母親・慶子さん(58)が応援にかけつけ「両親の前で勝つとはほんとにうれしい」と、あふれる涙をぬぐったものでした。
開幕戦2連覇で小田も完全にトッププレーヤーの仲間入りを遂げたといっていいでしょう。昨年は賞金も初めて1億円を突破しました。開幕戦と最後に2勝した昨年でしたが、今年はオールシーズンで勝てる選手としての実力を発揮してきました。今回プレーオフで4ホールを戦って敗れた丸山大輔をして「力強く小技もしっかりしていて強い。この先、何勝もする雰囲気をもっている」と言わしめた孔明です。石川遼や池田勇太とはまた違ったタイプの″中年の味″を発散する孔明。ロケットスタートで今季の″本命″にさえ指名する関係者もいるほどです。